シベリアを生き延びた画家、その後の色彩『香月泰男美術館』(長門市)

山口県

戦後の日本を代表する洋画家・香月泰男(かづきやすお)の作品を収蔵するミュージアム。過酷な体験の記憶が反映された漆黒の作品が代表作ですが、その後は鮮やかな色彩が戻ってきます。「色」の持つ意味を改めて考えさせられる美術館です。

訪問日:2026/5/4(月) ※掲載の写真・情報は訪問時のものです

郊外に立つ美術館

長門市の4つの文化施設「金子みすゞ記念館(500円)」「くじら資料館(200円)」「村田清風記念館(200円)」「香月泰男美術館(500円)」には共通券があります。料金は700円で30日間有効。2館めぐれば元がとれる、とってもお得なチケットです!

そんな4館共通券を使ってのミュージアムめぐり。最後に訪ねたのは香月泰男美術館。その名の通り、洋画家・香月泰男の作品を中心に展示する美術館です。

市街地から離れた、のどかな田園風景の中に現れる大きな建造物。彼の生家に近い三隅町湯免の地に建っています。

香月泰男の生い立ち

まずは香月泰男について簡単に紹介させていただきます!

香月泰男は明治44年(1911年)に山口県大津郡三隅村久原(現・長門市三隅下)の医者の家系に生まれます。昭和6年(1931年)に東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学。藤島武二の教室にて絵画を学びます。

昭和9年(1934年)に「雪降りの山陰風景」が国画会展で初入選。次第に評価を集めていますが、昭和18年(1943年)に軍隊の召集があり制作活動を中断せざるを得なくなります。旧満州ハイラルへ配属され、終戦後はシベリアに抑留されるという経歴を持ちます。

歴史に詳しい方はご存じかと思いますが、「シベリア抑留」というのは、第二次世界大戦の終戦後、旧ソ連が日本兵や民間人約60万人をシベリアなどへ強制的に連行し、過酷な労働をさせた出来事。極寒の環境や食糧不足、重労働に苦しみ、多くの人が命を落としました。

シベリアを生き延び、帰国した後は三隅へ帰郷。抑留の体験を描いた代表作《シベリヤ・シリーズ》が制作されていきます。57点にも及ぶという油彩画であり、「黒い作品」とも呼ばれる絵画。いったいどんな作品なのでしょうか。

静かで華やかな絵画

館内には展示室が2部屋あり、訪問した際に開催されていたのはこちらの展覧会。残念ながら撮影禁止でした。

香月泰男 ヨーロッパへの旅 フランス編
2026年3月4日(水)▶5月24日(日)

1956年に初めてヨーロッパを訪れた香月泰男は、約半年の滞在中に400枚を超えるスケッチを描きます。この展覧会は、一年をかけてその全容を公開していくというもの。第一弾はフランスで、次はスペイン、イタリアと続いていきます。

そこに並んでいた作品は、想像していたよりもカラフルな仕上がり。この展覧会の作品は、黒の時代こと《シベリヤ・シリーズ》を越えて、色彩が戻った時代のものなのです。

私の美術館の楽しみ方のひとつが、最後にミュージアムショップにて気に入った作品のポストカードを購入すること。お気に入りが必ずポストカードになっているとは限らないので、ちょっとした運試し要素もあります。今回はこの3枚を購入しました!

展示室の途中にある台所壁画の写真は撮影OK!単色で塗られた台所の壁、香月は野菜や魚をスケッチしていたそうです。華やかな写真は、まるで人気のフォトスポットみたい。

軽快な木のおもちゃ

館内には再現されたアトリエもあります。ストーブを中心に並ぶ家具はいずれもウッド調でおしゃれな山小屋みたいな雰囲気。

アトリエにぶら下がっているのは木でできた人形たち。まるで家主が留守の隙をみて遊ぶ妖精のような姿です。

こちらは廃材を利用して作った「おもちゃ」と呼ばれるオブジェ。三隅川の反乱で自宅を改築することになり、そのときに出た廃材を利用して制作をはじめたものです。

黒い絵の作者とは思えない、ポップでリズミカルな作品。人間だけでなく、ネコ、カメ、ウシ、フクロウなどの動物も。連れて帰って部屋に飾りたくなります。

おもちゃが遊ぶ庭

中庭や建物のまわりには、大きく再現されたおもちゃがたくさん!

建物の影や木の傍など、あちこちで暮らすおもちゃたち。いずれも楽しそうな雰囲気で、子どもが喜びそうです。

奥にそびえる木は「サン・ジュアンの豆の木」。シベリア抑留中に食料として食べさせられた豆を持ち帰り植えたものの子孫であるそう。様々な想いが込められていることが想像できます。

シベリヤシリーズはどこ?

ひと通り展示を見終えたところで思い出したのですが、香月泰男の代表作である《シベリヤ・シリーズ》はどこにあるのでしょうか?

実は香月泰男美術館は《シベリヤ・シリーズ》は収蔵しておりません。代わりに山口県立美術館が収蔵しているとのこと。きっとこの美術館は、シベリヤを越えた後の香月泰男の表現を展示する美術館なのでしょうね。

館内には展望室があり、周囲に広がるのどかな風景を捉えることができます。

そんな展望室で紹介されていたのは、《シベリヤ・シリーズ》の《〈私の〉地球1968年》

ついに見つけた《シベリヤ・シリーズ》。イメージ通り真っ黒な作品ですが、これは故郷の三隅を描いた作品。シベリアで抑留されていたとき、夢に見続けた土地なのです。

あ!そういえば、島根県立美術館にて香月泰男の作品を見たのを思い出しました!それがこちらの《冬の川(東)》

こちらは冬の三隅川を描いた作品。先ほど同様に色彩のない真っ黒な作品。いずれも緑豊かな自然の風景を描いているはずなのに、このような真っ黒になっているのが不思議。

シベリア抑留という深い絶望を体験した香月泰男には、一時、世界からすべての色彩が失われていたのでしょうか。そして、その色彩はなぜ再び戻ってきたのでしょうか。その答えが明確に示されることはありませんが、そんな問いを胸に作品と向き合うと、一枚一枚の絵がより深く心に響いてくるかもしれませんね。

アクセスと営業情報

開館時間 9:00~17:00
休館日 火曜
料金 500円
公式サイト https://kazukiyasuo.com/

※掲載の情報は2026年5月時点のものです。最新情報は公式HPにてご確認ください。

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