鬼とはいったい何者なのか『日本の鬼の交流博物館』(福知山市)

京都府

鬼をテーマにしたちょっとレアな博物館。館内には鬼瓦や鬼の仮面など、鬼に関連する展示が盛りだくさん。鬼を考察した読み物も多数展示されており、日本各地に伝わる「鬼」という存在についてどっぷりつかることができるミュージアムです。

訪問日:2022/5/8(日)

鬼がテーマの博物館

日本の鬼の交流博物館は、京都府福知山市・大江山麓にある鬼をテーマにした珍しい博物館。この大江山には鬼にまつわる伝説が3つもあり、それを町おこしとして活用するためにつくられました。

建物の目の間にそびえるのは巨大な鬼瓦。高さは5m、重さは10tにも及び、物凄い形相で訪れる人に睨みをきかせます。こちらは日本鬼師の会が中心となりつくりあげた「大江山平成の大鬼」。130のパーツに分けてつくられているそうです。

バリエーション豊かな鬼の姿

館内では鬼に関連する展示がずらり。写真左に並んでいるのは鬼瓦。ひとことで鬼瓦といっても、表情やデザインなど様々なバリエーションがあります。

たくさん並ぶのは鬼の仮面。髪があったり無かったり、カラーバリエーションも様々。角があるイメージですが、無いタイプもあります。

こちらは岩手県安代町に伝わるという鬼のワラ人形。五穀豊穣を祈り、町を守ってもらうために毎年つくられているそうです。

鬼といえば日本の妖怪ですが、「世界の鬼」に関する展示もあります。日本の鬼とは少し外見は異なりますが、近い存在は世界各地にて見ることができます。

変わっていく鬼の扱い

展示物を見るのはもちろん、テキストで書かれた「鬼の考察」は読み応え抜群。「祀られる鬼」「仏と鬼」「神楽の鬼」「暮らしの中の鬼」「追われる鬼」「民俗芸能の鬼」と、それぞれのテーマについて書かれているのですが、読んで行くと鬼という存在が時代に合わせて変遷していく様子を知ることができます。

古来、鬼は神の化身であり、祀られる存在でした。鬼を祀る鬼神社や、子孫の祝福に訪れる来訪神的な性格も持ち合わせていました。

仏教思想が日本に入ると、鬼の存在も変化していきます。それまでは招かれる存在であったところが、邪悪な存在へと変化。特に地獄の思想では、鬼は亡者を苦しめる恐ろしい存在として描かれるようになります。

さらに戦乱あけくれる中世になると、武士たちの強さを示すための武勇伝的な扱いへと変わっていきます。鬼退治伝説などもこの頃に多く生まれたようです。

3つの鬼伝説

さて、冒頭でもふれましたが、ここ大江山には鬼にまつわる伝説が3つ残されています。せっかくなので、ざっくりとご紹介させていただきますね。

①日子坐王の鬼退治

陸耳御笠(くがみみのみかさ)・匹女(ひきめ)を首領とする土蜘蛛が住み、人々を苦しめていました。祟神天皇は弟の日子坐王(ひこいますのきみ)に討伐を命じます。陸耳御笠は大江山に逃亡したとされています。

②麻呂子親王の鬼退治

用明天皇の時代、大江山には英胡(えいこ)・軽足(かるあし)・土熊(つちぐま)の3人を首領とする悪鬼たちが住み着いていました。用明天皇は皇子である麻呂子親王に討伐を命じます。一万騎の軍勢で挑むも、鬼たちの使う妖術によって苦戦。神仏の加護を受けてようやく討伐することができました。

③酒呑童子伝説

時は平安時代、大江山には酒呑童子(しゅてんどうじ)を頭領とする鬼の一味が住んでおり、京の都から次々と姫君をさらっていました。

酒呑童子討伐の命を受けたのは源頼光たち。彼らは山伏に扮して、酒呑童子に近づきます。

童子は山伏の正体を見極めようと、人の肉や血の酒を振る舞います。頼光たちはこれを食べ、疑いを避けることに成功。童子は打ち解けるように。頃合いを見て頼光は、道中に神々から授かった「神便鬼毒酒(じんべんきどくしゅ)」を鬼たちに飲ませます。この酒は人が飲めば薬となるが、鬼が飲めば神通力を失うという効力を持ったもの。童子が酔いつぶれている隙をつき、見事討ち取ることに成功しました。

 

③の酒呑童子は九尾の狐の化身である「玉藻前」、鈴鹿山の鬼神「大嶽丸」とともに三大妖怪とも呼ばれる特に有名な妖怪。その名を耳にしたことがある人も多いのでは。

鬼とは何者か

この博物館のユニークなポイントは、鬼の紹介だけにとどまらず、その正体を考察する記載も多く見られること。じっくり読んで、鬼の正体について自分なりに考察してみるのもこの博物館の楽しみ方の一つ。

以前「ヤマト政権に従わない者たちを鬼と呼んでいた」そういう話を耳にしたことがあります。先ほど紹介しました3つの伝説はもちろん、多くの鬼伝説では登場する「鬼」を「人」に置き換えても話が成立するのです。鬼の正体=人間というのもあながち間違いではない気がしますね。

この大江山の鬼の正体については、「たたら製鉄従事者」ではないかとの意見もあるそう。これは、大江山は古来より鉱山でありたたら跡が多く残されているということに加えて、山の麓に住む人から見たらたたら師の炎に焼けただれた姿は鬼のように映り、さらに川へ鉱毒混じりの汚水を流すことは恐怖の対象であったのでは、という意見に基づきます。

そんな鬼ですが、現代では「とても」という意味で使用されているケースが増えてきています。「鬼カワイイ」「鬼つよい」「鬼辛い」などの表現は、日常でも非常によく見かけます。

時代が変わり、鬼という存在のディティールは薄まってきていますが、超自然的な力を持つというその凄さだけは変わらず人々の間に浸透しているように思えますね。

アクセスと営業情報

宮福線の大江駅からバスで約20分のバス停《大江山の家》下車後、徒歩2分。車の場合は大江駅から約15分ほど。

開館時間 9:00~17:00
休館日 月曜、祝日の翌日、年末年始
料金 330円
公式サイト https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/onihaku/

※掲載の情報は2022年7月時点のものです。最新情報は公式HPにてご確認ください。

コメント

  1. […] 高さ150cmにも及ぶ立派な鯱は福知山城天守閣復元鯱瓦。日本の鬼の交流博物館の巨大鬼瓦でもおなじみ日本鬼師の会が平成18年に作り上げたものだそう。言われて見れば目つきや鋭いキバは鬼瓦に通ずる迫力がありますね。 […]

  2. […] […]

  3. 匿名 より:

    後発移民であるはずのヤマト朝廷側が、ヤマトの野望と征服要求に従わなかった先住民の土蜘蛛や、鬼と呼び蔑んだ山の民の童子たちを騙し殺めた大江山と由良川の一帯。
    その残虐な実態はヤマト朝廷側に都合良く書き換えられ、本来なら国作り神として崇められていたかもしれない古代日本人が鬼として書き換えられているならば本当に悲しく残念。

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