諏訪の古代神の血を引く一族『神長官守矢史料館』(茅野市)

長野県

諏訪大社の神官のトップ・神長官(じんちょうかん)を務める守矢家。そこに伝わる史料、そして古代から続く信仰に触れることができるミュージアム。どこか原始的でインパクト抜群な3つの茶室に代表される、藤森輝信の建築も見どころです。

2021/7/24(土)

独自の信仰を知る博物館

長野県の茅野市にある神長官守矢史料館。入口はとっても地味。表札もあるため、普通の民家のよう面持ちです。

門を抜けるとすぐに独特な建築の建物が見えてきます。ここは諏訪神社上社の神官の1つ・神長官(じんちょうかん)であった守矢家の所有する史料などを展示した博物館。なんとなく私設博物館のような雰囲気ですが、茅野市教育委員会が管理運営しています。そのため入館料も100円と非常にリーズナブル。

受付を済ませると、スタッフのおじさんがとても丁寧に守矢家について教えてくれます。熱量たっぷりに語られる古代信仰から現代につながる歴史のストーリー解説は、知識がなくても非常に引き込まれる内容です。

3つのフジモリ茶室

この資料館の原始的でありながらもどこかファンタジックな建築は、藤森照信によるもの。日本各地に建築作品がある建築家ですが、ここ茅野市が彼の出身地。この資料館は、彼のデビュー作に当たる建物で、建築目当てに訪れる人も多いそうです。

そんな守矢史料館から徒歩5分ほどのところには、3つの茶室があります。

空飛ぶ泥舟

まず目に入るのは空飛ぶ泥舟。両サイドからワイヤーで吊るされた楕円形の茶室。円形の窓が宇宙船のようで、虚ろ舟を連想させます。茶室と聞いてイメージするデザインとは大きく異なっており、既成概念を壊そうとする現代アート的な印象を受けます。

高過庵

続いて、同じく高く掲げられた高過庵(たかすぎあん)。茶室を支える柱は非常にか細く、見ていて不安になります。さらによく見ると、柱はわずか2本。せめて3本あれば安定感があるのですが…。

この高過庵は、アメリカのタイム誌が発表された「世界でもっとも危険な建物トップ10」にて9位に選ばれました。他にはピサの斜塔や、中国の断崖絶壁に建つ懸空寺などがランクインしています。

低過庵

3つ目の茶室は、低過庵(ひくすぎあん)という半分地面に埋まった建築。他の2つに比べると、とても安定した印象。お茶をたしなむなら、絶対ここが良いです。ここで気が付いたのですが、先ほどの高過庵は「高すぎる」、こちらの低過庵は「低すぎる」ということなのでしょうか。

古代神の末裔・守矢家

さてさて、神長官の守矢家とはいったいどのような家系なのでしょうか・・・?

守矢家の歴史ははるか昔、大和朝廷の支配が全国に及ぶ以前にまで遡ります。その頃、この地方にいた神様、守矢神(モリヤガミ・洩矢神とも)こそが守矢家の祖先。守屋山という山を神格化した神であったといわれています。

天津神である建御雷神(タケミカヅチ)との力比べに負け、出雲を追われた建御名方神(タケミナカタ)がこの地へ訪れます。すると、この地の土着神であった守矢神との間に戦いが起こります。

その戦いに勝利した建御名方命は諏訪明神として祀られるようになります。一方、負けてしまった守矢神は退治されたり追い出されることなく、諏訪明神へ使える神官のトップである神長官として配下にくだります。

それ以降、明治維新がおこるまで神長官を務めてきたのが守矢家。神話の時代から続く、神の血を引いた一族なのです。

なお、勝者であった建御名方神の血を引くものは、諏訪明神を宿す現人神として、大祝(おおほうり)という神職の頂点となります。

ショッキングな御頭祭

壁にびっしりと並ぶのは動物の剥製の頭部。こちらは、諏訪大社の御頭祭(おんとうさい)という神事をイメージしたもの。

現在でも行われている五穀豊穣を祈る祭で、江戸時代には75頭のシカの頭やサカナなどを供えていたそう。

ここでポイントとなるのが、普通は五穀豊穣の神事の場合、作物や野菜を供えるのが基本。なぜ、ここでは獣を備えるのでしょうか。

それは、この神事が古くから続いていることに由来します。まだ稲作文化が入る以前、山を神として崇めていた頃の狩猟文化にちなんでいるのです。

なぜ狩猟文化が残っているのか、それは戦いに負けた守矢神が淘汰されることなく神長官としてこの地に残ったことが、その理由と推測されます。守矢神の知略であったのか、それとも自らも敗者であった建御名方神に寛大さがあったのか、結果として2000年にも及ぶ長い期間で信仰をつなぐことになりました。

謎の神ミシャクジ

敷地内には御左口神社という神社があります。こちらはミシャグジ社とも呼ばれており、古代神であるミシャクジを祀るお社です。

ミシャクジは諏訪社の原始信仰による神で、神事の際に神長官である守矢氏が降ろす神とされています。一説では「御石神」と表記し、山や川を信仰する縄文時代の自然崇拝から生まれたともいわれています。

多くの人がこの神様について研究していますが、その実態は謎に包まれています。諏訪明神とも守矢神とも異なっているようですが、どいういった神様なのか断定することができないようです。

私も気になったので調べてみたのですが、調べれば調べるほど遠ざかっていくという不思議な神様。何か特定されることを拒んでいるようにも感じられます。

スタッフのおじさんとミシャクジについてしばらく話したのですが、やはり詳しいことはわかっていないそう。守矢神と同様に、建御名方神が来る以前から存在していた土着の神と考えられていますが、言い切ることもできない印象でした。

最後は「もし何か新しいことがわかったら教えてな」と託していただきました!この先どこかで何か関連するものに出会えるのを楽しみに、もうしばらく旅を続けていきます。

アクセスと営業情報

JR中央本線の茅野駅から徒歩約40分。車の場合は中央自動車道の諏訪ICから約5分。無料の駐車場あります。

諏訪大社上社の本宮と前宮のちょうど間に位置しています。また、すぐ近くには2021年に完成した高部公民館という、藤森照信が建築を担当した施設があります。藤森建築好きな方はこちらも要チェック。

開館時間 9:00~16:30
休館日 月曜、年末年始
料金 100円
公式サイト https://www.city.chino.lg.jp/soshiki/bunkazai/1639.html

藤森照信建築に興味がある方は、こちらのページもご覧ください。

藤森照信建築
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