モスグリーンが美しい苔と怪物を倒した霊犬の伝説『光前寺』(駒ヶ根市)

長野県

木立に包まれた趣深い古刹・光前寺。境内には杉の並木や敷き詰められた苔、森の中の三重塔など、情緒深い光景が続きます。人々を苦しめた怪物と勇敢に戦った霊犬・早太郎の伝説も残っています。

2021/7/21(水)

木立に包まれた古刹

光前寺は第3代天台座主である円仁の弟子である本聖によって、860年に開かれた天台宗の寺院。

境内の入口となる仁王門を抜けると、杉の木が立ち並ぶ参道が続きます。樹齢は数百年であろう巨木も多く、射し込む木漏れ日と相まって神秘的な雰囲気。

木立の先に現れるのは、重厚な三門。木造の立派な楼門で、楼上には十六羅漢像を安置しているそう。

本尊である不動明王を安置する本堂。1851年に再建された江戸時代の建築です。木彫りの彫刻が見事で、特に海老虹梁に掘られた下り龍と、それを支えるように彫られている力士が立派です。

木々に包まれた荘厳な雰囲気の三重塔。南信州では唯一の塔で、その高さは17m。内部には五智如来像を安置しているそう。

境内の見どころ

本堂の裏手には、こんこんと流れる延命水。飲料水の基準に適合していますが、飲用は自己責任でとのこと。真夏の訪問でしたが、冷たくて気持ち良い。

霊木の三本杉は、きれいに並んだ樹齢700年といわれる杉の古木。幹の太さもさることながら、見上げたときのその樹高と、枝の広がりが神秘的。

境内の墓地には、上穂十一騎之碑が建てられています。この「上穂十一騎」というのは、駒ヶ根市西側に広がる上穂郷で武芸に秀でた者たちのこと。大阪なの陣において、真田幸村の配下として戦い、夏の陣では徳川家康の本陣に迫る活躍を見せたそう。

モスグリーンの苔寺

境内には非常にコケが多く、苔寺と読んでも差し支えないほど随所でグリーンの情景を見ることができます。

参道の途中には、一面グリーンの苔が敷き詰められた苔の小道。立ち入り禁止となっていますが、そのため荒れることなく繊細なコケの道ができあがっています。

また、参道の石垣の中にはヒカリゴケが自生しています。ここ!といった案内は無いので、石垣をじっくり見ながら探してみたところ、ぼんやりとグリーンに輝くヒカリゴケを発見しました。

反射によって光るため、見る角度が大事です。また、ヒカリゴケを見ることができるのは、4月中旬から10月の下旬までの時期とのことです。

早太郎の伝説

こちらの木彫りの犬の像は、かつて光前寺で飼われていた犬。とても強い犬で「早太郎」という名で呼ばれていました。この早太郎には、人々を救ったという伝説が残っています。

その昔、静岡県の見付町(現在の磐田市)という地域では、毎年矢奈比売神社の祭りの日に神様に娘を生贄として捧げる風習がありました。

この村にたまたま立ち寄った旅のお坊さんはこの話を聞き、「神様がそのようなことを望むはずがない」と考えその正体を見極めようとします。

祭りの夜に神社に隠れていると、そこに現れたのは神様ではなく、大きな怪物でした。その様子を伺っていると、怪物は娘をさらう際に、「信州の早太郎はおるまいな、早太郎には知られるな」とつぶやいているのを耳にします。

これを聞いたお坊さんは早太郎が怪物退治のカギになると考え、信州へ向かいます。1年近く探し回った末、この光前寺にて飼われていた犬の早太郎を発見。住職に事情を説明し、早太郎を借り受けることに成功します。

次の祭りの日、生贄の娘の代わりに早太郎が怪物のもとへと送られます。隼太郎は怪物と戦い、これを退治することに成功。怪物の正体は、年老いた猿の妖怪・狒々(ひひ)であったそうです。

役目を果たした早太郎。しかし、戦いの中で深い傷を負っていました。なんとか光前寺まで帰るも、住職のもとで一声吠えるとそのまま命を落としてしまいます。

そんな早太郎を祀るため、境内には墓地がつくられ、今でも讃えられています。

この話は見付町のあった磐田市にも残っており、そちらでは悉平(しっぺい)太郎という名でも呼ばれているそう。さらに「しっぺい」というゆるキャラにもなっています。また、この伝説は「まんが日本昔ばなし」でも猿神退治というタイトルでアニメ化されています。

この話で気になるところは、怪物は登場時から早太郎を恐れているところ。ということは、この話以前にもどこかで早太郎と何か関連があったのか、あるいは早太郎にはもっと他にも伝説があり、その名声が狒々に届いていたのかもしれません。どこかに早太郎のアナザーストーリーは残っていないのでしょうか・・・?

光前寺庭園

光前寺の境内全域は光前寺庭園として国の名勝に指定されています。

そのうち、本坊西側の庭園は拝観料500円にて見学することができます。山や池がつくられた築山式池泉庭園で、草木に包まれるように滝も置かれています。

江戸時代初期に造られたとされていますが、正確な築造年および作者は不明。縁側に腰掛けて庭園を眺めることも可能で、ほっと一息つける場所です。

庭園と合わせて、釈迦涅槃像や釈迦如来像など様々な仏像を安置した宝物館も拝観できます。

 

木曽駒ヶ岳登山の帰りに立ち寄ったのですが、見どころは多くわかりやすく、それでいて静かな雰囲気。隣にはお蕎麦屋さんと、どら焼きやソフトクリームをの売店もありますので、ひと休みしつつ参拝するのも良さそうです。

また、桜の名所としても知られているので、次は春先にまた訪れたいです。

アクセスと営業情報

駒ヶ根ICから3分ほど。千畳敷カール・木曽駒ケ岳行きのバスが発着する菅の平バスセンターから1kmほどのところにあるので、合わせての訪問もおすすめです。

参拝時間 8:30~16:30 ※本堂・庭園・授与所は9:00~16:00
拝観料 無料 ※庭園は500円
公式サイト http://www.kozenji.or.jp/

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