知られざる戦争の傷跡を伝える資料館『しょうけい館』(千代田区・九段下)

東京都(23区)

戦争により傷を受け、病を患い苦痛を味わってきた人々の姿を後世に伝えるためのミュージアム。生き残ることができても、そこからの暮らしには様々な苦しみが詰まっていました。展示内容は非常にわかりやすく、映像も多数ありますので知識がなくても理解が深まる資料館です。

訪問日:2024/9/1(日) ※掲載の写真・情報は訪問時のものです

戦争を伝えるミュージアム

九段下には、靖国神社・昭和館などと並ぶ戦争の歴史と関わりの深いしょうけい館というミュージアムがあります。

ひらがな施設名ですが、漢字にすると引き継ぐことを意味する「承継」。何を承継するかといいますと、ここは戦中・戦後の人々の労苦に関する証言や資料を保存展示した施設。戦傷病者史料館という名称も合わせて表記されています。

建物の2階が受付と企画展示室、3階が常設展示室となっています。入館は無料ですが、受付にて案内があります。ここでQRのチケットをいただかないと、3階の展示室に入れないのでご注意を。

なお、個人の所有物がメインの展示であるため、写真撮影はNGとなっています。ということで、イメージとしてパンフレットを写したものを掲載させていただきます。

兵士を襲った傷と病

展示品入口では、実写の映像作品が上映中。現代の平和な日本に生まれた若者が世界のどこかではじまった戦争を偲ぶところからはじまります。

徴兵、入営、出征、戦地での生活と続く流れの中で展示されているのは、実際に兵士が撃たれた銃弾である摘出弾や、止血に用いた日章旗、受傷時に停止した腕時計など生々しい品々。

兵士を襲ったのは戦傷だけではありません。補給が途絶えた結果陥った栄養失調では、68kgの体重が39kgまで減少、杖がないと歩けないほどに衰えてしまっていたそう。

さらに蚊を媒体として感染するマラリアは、頭痛、嘔吐、熱発作などを伴い、兵士たちの命を奪っていきます。

野戦病院のジオラマ

ジャングルの洞窟につくられた野戦病院を再現したジオラマもあります。等身大の兵士の人形が置かれており、恐ろしいほどリアル。ボタンを押すと解説音声も流れます。

その実態はあふれる患者で治療もままならず。軍医や衛生兵は足りず、負傷者は増える一方であったそう。医薬品はもちろん、食料も不足していたため誰もが栄養失調で衰弱。言いつけを破り水を飲んでしまうと、そこから伝染病にかかってしまうという悲惨な事態も。

傷病兵を乗せた病院船

重傷の兵士を戦場から後方へ送ったのが病院船。客船であった「氷川丸」は、戦時下において病院船としての役割を果たします。24回の航海で3万人もの傷病兵を内地へ輸送していたそうです。

病院船は純白の船体に緑の帯、赤十字の標識が大きく描かれていました。国際法で航海の安全が保証されていましたが、多くの病院船は攻撃を受けて沈没してしまっていたそう。館内で見ることができる実際の証言では、戦闘機が接近するも攻撃はなく離れていったというお話もありました。

氷川丸は、戦争が終わると引揚者の輸送にも従事。現在は役割を終えて、横浜の山下公園に保存・展示されています。

豪華客船に描かれた謎の紋章と飾り毛布『氷川丸』(横浜市)
豪華客船であったり病院船であったりと様々な活躍をしていた氷川丸。役目を終えた現在は横浜で余生を過ごしています。優雅な客室や無骨な機関室など隅々まで見学することができます。

傷痍軍人による白衣募金

足を失った者に天皇より贈られた恩賜の義足。さらには義眼や義指なども展示されています。

戦争にて傷をおった兵士は、「傷痍(しょうい)軍人」と呼ばれていました。

戦時下では傷病軍人に対して社外復帰政策や軍人傷痍記章の授与など保護が行われていました。しかし、終戦後に占領軍による日本の非軍国主義化政策が進められると、その軍人恩給が停止。戦傷病者は就職難、食糧難の道を歩むことになってしまいます。

1947年5月、国立第二病院の入院患者である5名の戦傷病者5名が数寄屋橋にて募金活動を開始。患者であることを示すため白衣で行ったため白衣募金と呼ばれました。これが大きな成果をあげたことから、傷痍軍人はギターやアコーディオンなどの楽器を手に、都市部や観光地に現れて募金を募るように。

これが社会問題となったことを背景に、1952年にサンフランシスコ平和条約が発効して日本が独立を回復すると、軍人恩給が復活しました。

行ってみた感想

かなり前から存在は知っていたのですが、そのテーマの重さからなかなか勇気が出ず、今回昭和館と合わせてやっと訪問することができました。

展示は読み物パネルがメインですが、生々しい実物の展示や映像・ジオラマなどもあり、静かながらも臨場感のある博物館。常設展示室は1フロアだけなのでボリュームはそれほどありませんが、見入ってしまう内容なので、気がつけば1時間以上滞在しておりました。

すぐ近くにある「昭和館」では戦中・戦後における人々の暮らしがメインであったのに対し、こちらは徴兵により戦地へ赴くことになった兵士の目線で戦争を感じることができる施設でした。

運良く生きて帰って来ることができても、さらなる苦しみが襲うなんて。この施設に訪れる人が増えて、その労苦が忘れられることなきように願うばかりです。

アクセスと営業情報

都営新宿線、東京メトロ東西線・半蔵門線の「九段下駅」7番出口より徒歩3分、5番出口より徒歩5分

開館時間 10:00~17:00
休館日 月曜、年末年始
料金 無料
公式サイト https://www.shokeikan.go.jp/

※掲載の情報は2024年8月時点のものです。最新情報は公式HPにてご確認ください。

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