東京国立博物館③ めくるめく仏像の世界『法隆寺宝物館』(台東区)

東京都(23区)

トーハクこと東京国立博物館の法隆寺宝物館は、法隆寺に伝わる宝物が展示されたミュージアム。モダンな建築の内部に広がる静かな展示室には、7世紀の古代美術がずらりと並びます。なぜ法隆寺の境内ではなく、東京の博物館に寺宝が並んでいるのでしょうか?そこには深い理由があったようです。

訪問日:2023/1/9(月) ※掲載の写真・情報は訪問時のものです

モダンな外観の博物館

1964年(昭和39年)に開館した法隆寺宝物館。1878年(明治11年)、法隆寺から皇室に献納された「法隆寺献納宝物」を保尊展示するために造られました。建物自体は1962年に竣工していましたが、文化財の万全な保存のため2年間コンクリートを枯らしたそうです。また、同じく文化財保全のため、毎週1回木曜日のみの開館、さらに雨天の日は閉館であったそう。

現在の建物は2代目にあたり、1999年に開館したもの。休館日をのぞいて毎日、天候を問わず開館しております。建物の前庭には水が張られており、まるで水に浮かんでいるかのような姿。

設計を担当したのは谷口吉生。「葛西臨海水族園」や「香川県立東山魁夷せとうち美術館」などで知られる、世界的な建築家です。

静かで落ち着く展示室

館内はかなりモダンな造り。天窓からは爽やかな自然光が降り注ぎます。

館内にはコインロッカー、トイレ、ちょっとした休憩スペースもあります。「ホテルオークラ ガーデンテラス」というカフェがあるのですが、休業中でした。(※2023年1月時点)

静かで落ち着いた雰囲気の展示室。照明も最小限となっています。おそらく展示物を傷めないためにあえて暗くしているのではないでしょうか。

照明の暗さ、そして本館や東洋館に比べると訪れている人が少ないため、とても静か。厳かな空気が流れます。

めくるめく仏像の世界

ずらりと並ぶのは、金メッキされた銅製の仏像「金銅仏」。ほとんどが7世紀に作られたものであるそう。

高さ30〜40cmの小型の仏像で、ガラスのショーケースに入っているため横や後ろからも観察することができます。一見すると同じように見える仏像も、衣や装飾具が異なっていたり、表情に差があったり、さらに全体のバランスも様々。見比べて行くと細やかな違いが見えてきます。

こちらの平面的な仏像は「押出仏」。型となる仏像に薄い銅板を重ね、叩いて姿を打ち出したものです。型を作ったあとは、量産することができました。

他では見られない灌頂幡

館内の展示の中でも目を引くのは灌頂幡(かんちょうばん)。法隆寺献納宝物を代表する名品とのことです。

「幡(ばん)」というのは、仏教の儀式で使用する旗のこと。中でもここで見ることができる「灌頂幡」というものは、四角い天蓋から連なった金属製の板である大幡と小幡を吊り下げた豪華な仕上がり。

すぐ隣の吹き抜け部分には、灌頂幡を再現した模造品も展示されています。全長10mという大きなもので、精巧に透かし彫りが施された銅板は金メッキできらきらと輝きます。

静かに並ぶ香木

他にも漆工、金工、絵画、書物など、様々なジャンルの美術品が並んでいます。そんな中でも気になったのは香木

こちらの『青木香』は、奈良時代に製造されたウマノスズクサの根を使用した香料。鎮痛、消炎効果もあったという香材、いったいどんな香りがするのでしょうか。香木の入る箱も『草花銀絵漆皮箱』といい、奈良時代に作られたものであるそう。

3つ並んだ香木は、手前から『栴檀香』『沈水香』『白檀香』。いずれも飛鳥〜奈良時代にかけてのものだそうです。

これらの香木は、日本国内では手に入らないもの。さらに、パフラヴィー文字というペルシアで使用されていた文字の刻銘などが見られることから、古代ペルシア人との繋がりも考えられています。

なぜ法隆寺は宝物を献納したのか

ここで気になるのは、なぜ法隆寺は貴重な宝物を皇室に献納したのか。

正確な理由というのは明らかにされていないようですが、法隆寺は宝物を献納した見返りとして数億円に及ぶお金が下賜されたそう。

明治維新がおこると、それまでの江戸幕府による後ろ盾が無くなり全国の寺院の多くは困窮したといわれています。法隆寺も例にもれず経済的な苦境に直面していたため、宝物を手放すことで資金を得るという決断に踏み切ったのではと考えられています。

もし宝物を手放したならば、様々なところへ散らばってしまう可能性があります。どうせ手放すならば、最も安全である皇室の元へ献納するのが一番、と考えるのは自然な流れです。

なお、皇室所有であった宝物は、1949年(昭和24年)にGHQの皇室財産の削減指示によって国有へ。東京国立博物館の展示の一部として公開されていましたが、この法隆寺宝物館の完成とともに専用の展示館を獲得。多くの宝物が公開されることとなりました。

見学所要時間と行ってみた感想

一館まるごと展示室ではりますが、展示ボリュームはほどほど。ぱっと見るだけなら30分もあれば充分。じっくり派でも1時間程度見て置けばヨユウかと思います。(ただし、大量に並ぶ金銅仏の魅力に取りつかれてしまった場合は、この限りではありません・・・!)

館内の展示は、解説などは少な目。そのため、多少知識が無いと理解しにくいポイントもあるかもしれません。そんなときは、仏像を見比べてみるのがおすすめ。たくさんの仏像の中から、自分の好みにぴたりとハマるものを探してみるのも楽しそうです。

ちなみに私のお気に入りはこちらの『如来坐像』。前に大きく垂れた衣と、その模様がたまりません。

東京国立博物館の他の館に比べて、目に付きにくい奥地にあるため訪れる人は少な目。ゆったりと自分のペースで鑑賞できる博物館でした。

アクセスと営業情報

JR上野駅公園口、または鶯谷駅南口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線の上野駅からは徒歩15分。

開館時間 9:30~17:00 ※金土に行われていた夜間開館は2023年1月時点では中止となっています
休館日 月曜 ※祝日の場合は翌日
料金 1,000円
公式サイト https://www.tnm.jp/

※掲載の情報は2023年1月時点のものです。最新情報は公式HPにてご確認ください。

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