木々に包まれた謎の遺跡『道野樟脳製造所遺構』(枕崎市)

鹿児島県

枕崎の中でもディープなスポットである、樟脳の製造所跡。森の中に残るレンガや石の遺構は、まるで遺跡のような存在感を放ちます。ところで、樟脳っていったい何なのでしょうか?

訪問日:2023/11/7(火) ※掲載の写真・情報は訪問時のものです

森の中に残る遺構

今回初めて訪問する枕崎。最南端の始発終発駅である「枕崎駅」や、シンボルである「火之神公園」などはもちろん訪問予定ですが、他にも隠れた名所を見逃しているかもしれません。ということでGoogle Mapを細かく巡回していると、目に付いたのは「道野樟脳製造所遺構」の文字。なんだか遺跡みたいな写真がアップされており、非常に興味をそそられます。

ということで、枕崎の中心へ向かう前に立ち寄ってみることに。

目立つ案内が無いため、少々迷いましたが、木々に包まれるように残る遺跡を見つけました。

こちらは昭和元年〜12年頃まで稼働していた樟脳製造所の遺構であり、枕崎市指定文化財にも指定されています。

ところで樟脳って何でしょうか?

樟脳っていったい何?

字面からなんだかキケンな香りがする「樟脳(しょうのう)」という言葉。いったいココで何を造っていたのでしょうか。

この樟脳というのは、クスノキから製造する半透明の結晶のこと。防虫剤やかゆみどめ、清涼感のある香りからお香にも使用されることがあります。後にセルロイドの原料、また無煙火薬の原料としても利用されてきました。

クスノキは暖かい地域にしか生えないため、樟脳の産地は限られます。江戸時代には金や銀に次ぐ輸出品として重宝され、昭和には、たばこ・塩とともに日本専売公社による専売が行われていました。

やがて安価な合成防虫剤などが登場し需要は減少、1962年には専売から除かれることになります。現在、国内の生産者は4軒ほどしか残っていないそうです。

水を使った製造方法

この製造所は、「かまど・釜・冷却水槽・通い筒」から構成されており、水蒸気蒸留法により樟脳を抽出していたそう。

ここからは予想ですが、かまどに火をくべて釜の中でクスノキを蒸して成分を水蒸気として抽出、その水蒸気を通い筒に通し、冷却水槽内で冷やして結晶化させることで造りだしていたのではないかと思います。

なぜか水蒸気蒸留法についてすらすらとイメージがわいてきましたが、その理由は9月に北海道の『北見ハッカ記念館』にて、ハッカの精製を見て来たばかりだからなのです。「ハッカ脳」の精製方法とほぼ同じではないでしょうか。

世界一を誇ったハッカの歴史『北見ハッカ記念館』(北見市)
全盛期には世界の70%のシェアを誇った北見のハッカ。どのような歴史があり、どうやって生産されていたかを体感することができるのがこの北見ハッカ記念館。ハッカ生産の第一段階である「ハッカ蒸溜」の行程も見学可能です。

なお、クスノキを蒸すため、さらには抽出した成分を冷やすために大量の水が必要となります。そのため、近くには500㎡の貯水池が造られ、道路の下に暗渠水を通して水を流していたそう。おそらくこちらの深く掘られた場所に水車が置かれていたのではないでしょうか。

鹿児島と樟脳の関係

日本の樟脳製造の歴史は諸説あるようですが、一説によると島津家が朝鮮出兵の際に連れ帰った朝鮮人陶工が鹿児島で造ったものが最初といわれています。県内の東市来町(ひがしいちきちょう)には「樟脳製造創業之地」と呼ばれる場所があり、記念碑が立てられているそう。

このときに生み出された樟脳づくりは、「素焼鉢にクスノキの木片を入れて炊き上げることで、鉢の内側に樟脳が付着するためそれを採取する」という方法であったそう。この素焼鉢の質も重要であるため、優れた製陶技術が重要であったのです。

鹿児島には多数のクスノキが自生していたということもあり、江戸時代には樟脳づくりは薩摩藩の重要な産業に。さきほど輸出品として重宝されたと述べましたが、その多くは薩摩藩によるものであったそうです。

永らくは薩摩藩の独占であった樟脳ですが、江戸時代後期になると土佐藩もその製造が可能に。薩摩藩と土佐藩は樟脳貿易によって富を得て武装を強化、倒幕運動へと繋がっていったともいわれています。

今までその存在すら知らなかった「樟脳」、いざ調べて見ると樟脳づくりは非常に重要な産業であったことがひしひしと伝わってきます。薩摩藩にとって大きな負担であった朝鮮出兵によってもたらされた技術であり、それがめぐって幕末へ結びつく辺りは、様々な事象が結びついていくという歴史の面白さが詰まっているのではないでしょうか。

アクセスと駐車場情報

枕崎駅から車で約10分ほど。専用の駐車スペースは無く、路肩に停めて木々の中へと進んで行きます。大きな看板などは無いため、うっかり通り過ぎないように注意が必要です。

秋に訪問したため草木の茂りや虫は控えめでしたが、センダングサが大量でこんなことになってしまいました!あと、クモの巣もたくさんありました。

訪問予定の方は、ある程度汚れても良い服装が推奨です・・・!

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