芦ノ湖を縦断する交通ライン・芦ノ湖遊覧船。箱根園や箱根関所など様々な観光スポットへ水上からアクセスできます。そんなこの船には、箱根をめぐる鉄道会社の戦い「箱根山戦争」が大きく関わっています。
芦ノ湖遊覧船
芦ノ湖を運行している真っ白な遊覧船。芦ノ湖をめぐり出発港に戻る「周遊コース」と4つの港を行き来する「定期航路」があります。
定期航路の寄港する港は、湖尻港、箱根園港、元箱根港、箱根関所跡港の4ヶ所。いずれも観光スポットがある港なので、箱根旅行の交通手段としても非常に利用価値の高い船です。
※2020年9月現在、湖尻港までの航路は運休となっています。
おすすめの箱根旅助け
芦ノ湖遊覧船を利用するにあたり、おすすめなのがフリーパスの「箱根旅助け」。手形風なデザインが、かつて関所があった箱根にちなんでおりとってもユニーク。小型なので、定期入れやスマホケースにもするっと入ります。
こちらは伊豆箱根鉄道が発行しており、伊豆箱根バス乗り放題に加え、芦ノ湖遊覧船、駒ケ岳ロープウェイ、十国峠ケーブルカーにも乗車可能。さらに箱根園水族館の入館券も含まれ、その他多数の観光施設での割引も受けることができます。
お値段は2日間有効でたったの3,000円。仮に小田原から箱根園に行く場合、バスの運賃は片道1,330円、もし箱根園水族館に行くならば入館料1,500円。往復するだけでを4,160円となるため、日帰り旅行でもあっさり元が取れてしまうお得っぷり。
安定感のあるカタマラン船
今回乗船したのは「はこね丸」。まるで宇宙船のようなレトロフューチャー感のあるルックス。ホワイトをベースに、赤・青・緑の配色が入る「ライオンズカラー」がいかにも西武グループらしいデザインです。
正面から見ると、底の部分空洞になっているのがわかります。こちらは2つの船体をくっつけた「双胴船(カタマラン)」と呼ばれるタイプの船で、安定感があるため揺れに強いのが特徴です。
冷暖房が完備された屋内席。船の横幅が広いため、とっても広々としています。余計な装飾の無いシンプルな内装は、非常にさっぱりとした印象です。
パノラマ広がるデッキ
2階、3階は屋外へ出ることができます。吹き抜ける風は心地良く、海風と異なりベタベタしないのもポイントです。さらに3階にはもう1段階上のデッキが。
曲線的で近未来な雰囲気のデッキに立てば、360°に広がる爽快な景色が楽しめる。湖畔に広がる箱根の観光スポットが一望できます。朱色が目立つ、箱根神社の水上鳥居もよく見えます。
船が進んでいくと見える景色も少しずつ変化していく。箱根園港に差し掛かったあたりで、緑青の屋根が重厚な建築が見えます。まるで寺院のようなこちらは「龍宮殿」。京都の平等院鳳凰堂をモデルにした宿泊施設で、かつて浜名湖にあったものを移築してきました。
芦ノ湖遊覧船で行きたい観光スポット
芦ノ湖遊覧船の寄港する各港の主な観光スポットをまとめてみました。
箱根園港
■箱根園水族館
日本一高いところにある海水魚水族館。カラフルな熱帯魚やウミガメが悠々と泳ぐ巨大水槽や、話題の温泉あざらしを見ることができます。
■駒ヶ岳ロープウェイ
標高1,327mの駒ヶ岳山頂へたった7分でアクセスできるロープウェイ。山頂からは富士山や箱根市街地を見渡すことができます。箱根三社の1つ、箱根元宮へ参拝も可能です。
■ふれあい動物ランドだっこして!Zoo
イヌやネコをはじめ、カピバラやブタなど様々な動物とのふれあいが楽しめるコンパクトな動物園。ユニークな生き物が多数飼育されています。
■水陸両用バス「NINJABUS WATER SPIDER」
1日7便ほど運行しており、所要時間は約25分。地上を出発したバスは、芦ノ湖へとダイブ!まるで水蜘蛛で水上を進む忍者のように、芦ノ湖を周遊します。
元箱根港
■ベーカリー&テーブル
湖畔に立つおしゃれな雰囲気で人気のパン屋さん。屋外テラス席には、なんと足湯が設置されています!足湯につかりながら、芦ノ湖を眺めてティータイムも楽しめます。
■箱根神社
縁結びのパワースポットとして多くの人々が参拝する神社。遊覧船からも見える水上鳥居「平和の鳥居」は撮影スポットとしても人気を集めています。
■成川美術館
現代日本画を扱う落ち着いた雰囲気の美術館で、ゆったり静かに美術鑑賞が楽しめるスポットです。芦ノ湖を見渡す展望ルームもそなえています。
■水陸両用バス「NINJABUS WATER SPIDER」
こちらからも水陸両用バス「NINJABUS WATER SPIDER」に乗車できますが、箱根園港発のコースとは異なる1日1便の特別コース「エンタメNINJABUS」。この地にゆかりのある風魔忍者にちなんだ暗号を解読しながら進む体験型のプログラムです。
箱根関所跡港
■箱根関所
かつて江戸幕府が設置していた関所を復元した歴史スポット。再現された江戸時代の家屋や、当時の衣装に扮した役者さんによる寸劇などまるでタイムスリップしたような気持ちで楽しめます。
■箱根関所旅物語館
箱根の名産品や民芸品などがずらりと並ぶ大きなお土産屋さん。レストランでは、エメラルドグリーンがショッキングな「芦ノ湖カレー」も食べることができます。
湖尻港
■箱根ロープウェイ
少し歩くと、大涌谷へ向かう箱根ロープウェイの桃源台駅があります。早雲山駅からは、箱根登山ケーブルカー&箱根登山鉄道を乗り継ぎ、箱根湯本駅まで向かうことができます。
※これらの乗り物は「箱根旅助け」では乗車できないので別途乗車券が必要となります。
海賊船と比べてみよう!
箱根の船といえば、こちらの海賊船を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?芦ノ湖遊覧船に比べると、外観も内装もゴージャスで、まるでテーマパークのアトラクションのようです。
この海賊船は、小田急グループによる運行。箱根旅助けで乗船することはできませんが、小田急グループの箱根フリーパスならば乗り放題になります。箱根フリーパスか、箱根旅助けか、どちらのパスを利用するかでどちらの船に乗るかが決まります。
加えて、この2つの船は航路が若干異なっております。特に大きな違いは、箱根海賊船は箱根園港に寄港しません。そのため、箱根園へ行く予定の方は、芦ノ湖遊覧船を選ぶ方がスムーズに移動できます。
箱根山戦争とは
なぜ2社で趣の大きく異なる船を運行しているのか、それは西武グループと東急・小田急グループによる箱根の交通をめぐる戦い「箱根山戦争」があったことに起因しています。
激しい企業戦争
当時、西武グループは「ピストル堤」と呼ばれる堤康次郎、東急・小田急グループは「強盗五島」と呼ばれた五島慶太という、それぞれカリスマ経営者が主導しておりました。開発・買収・訴訟とハイスピードで展開していくその戦いは熾烈を極めます。
そんな戦いは現場でも発生。両社ともに箱根エリアのバスルートを持っていたのですが、小田原駅前では拡声器を使用してお客さんの取り合い、箱根の山道でそれぞれのバスが抜きあうレース状態であったといいます。
実際に経験したわけではないので真偽は分かりかねますが、ネット上に多数アップされているいろいろな方の記事を読むだけでも、その白熱っぷりが伝わってきます。
双胴船 vs 海賊船
戦いは陸だけでなく、水上へも続きます。両社ともに芦ノ湖に航路を所有しており、小型の遊覧船が運航していました。
そこで登場する芦ノ湖遊覧船は、湖の戦いでの西武グループの切り札。それまでとは異なる大型の遊覧船であることに加え、当時客船としては日本初の双胴船を作り上げ、大きく話題を呼びました。
苦戦を強いられた小田急グループの出したカウンターが箱根海賊船。ファミリー層へのアピールを念頭に、アメリカのディズニーランドを参考に作り上げたアイディアでした。当初は和風なイメージの強い箱根エリアに、洋風な船を浮かべることは多くの反対を受けました。しかし、子供からの絶大な支持を集めることに成功。結果的にファミリー層をがっつりと掴むことができました。
戦いは終結
最終的に両社は和解。路線バス相互乗り入れ協定が結ばれ、戦いは収束へと向かっていきます。
この結果として、箱根の交通および観光インフラは格段に進歩。令和の時代でも人気な観光地としてのネームバリューが続いているのは、この戦いの影響といっても過言ではありません。
近年では、小田急グループのロマンスカーに西武グループのプリンスホテルがセットになったプランが出ていたり、また西武鉄道内にて小田急グループの箱根フリーパスを販売していたりと、両社間の歩み寄りは進んでいます。いつの日か、箱根は統一されるかもしれませんね。
箱根山戦争については、Wikipediaにかなり詳しく掲載されています。また、「箱根山」というタイトルで、小説も書かれており、映画にもなっています。興味がある方はぜひチェックしてみてください!
やっぱり海賊船と比べるとどうしても地味な印象がある芦ノ湖遊覧船。せっかく宇宙船っぽいデザインなので、ネオン照明などでスペースシップ風にアップデートしてみてはどうでしょうか?
もしくは、箱根=温泉のイメージで、露天風呂付きの船、題して「浴衣船」とかどうでしょうか??
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