コミカルなようで不気味でもある独特なヴァンジの作品が並ぶ屋外美術館。シンプルながらインパクトの強い作品を眺めていると、想像力が掻き立てられます。
クレマチスの丘の美術館
静岡県の長泉町、三島駅からバスで30分ほどのところにあるのがクレマチスの丘。「ベルナール・ビュフェ美術館」や「井上靖文学館」といった施設が並ぶ、カルチャースポットです。
特に印象的なのは様々なクレマチスが咲く「クレマチスガーデン」、そして、ユニークな彫刻が旅行雑誌でもおなじみの「ヴァンジ彫刻庭園美術館」。なのですが、この2つは2023年9月30日をもって閉鎖とのこと。
今回の記事はヴァンジ彫刻庭園美術館に訪れた際のレポートですが、現在は見ることができないのでご了承ください。
野内外に広がるヴァンジの世界
ヴァンジ庭園美術館は、イタリアの彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジの作品が並ぶ屋外型の美術館。広々とした丘には、作品が点在しています。
野外美術館の良いところは、自由に作品を鑑賞できること。屋内の美術館だとどうしても「静かにしなきゃ」って気がしてしまうのですが、ここでは喋りながら見たり、写真に撮ったりしてもそれほど物音が気になりません。
いろいろなところに作品が隠れており、探してみる楽しさもあります。
また、一部に屋内展示もあります。屋内も広々としており、とにかく閉塞感を感じさせない美術館。
ヴァンジの作品は閉塞感を感じるものが多いため、あえて開放的な環境を作ったのではないでしょうか。
想像力が掻き立てられる作品
作品たちは不思議な表情だったり、日常では考えられないような変わった境遇に置かれているので、眺めているといろいろな想像が膨らみます。作品についての解説などは一切ないので、独自の解釈で楽しんでみることにしました!
《コートを着た女》
一見すると普通の人なのですが、反対側から見ると不思議な体つきに見えるという、独特のバランスで作られています。コートの下からは緑色の植物のようなものが覗く。もしかして、本当は人間ではなく植物なのではないでしょうか。私たちの暮らす世界とは別の次元から来ているのかもしれません。
《回る男》
顔がたくさんある男。タイトルから推測すると、回転している残像でしょうか。それにしては軌道がかなり特殊で、まるで2つの軸で回転しているようにも見えます。
《ヨブ》
何かに祈りを捧げる白い男性。ヒゲがあるので年老いている風貌ですが、子供のように無垢にも見えます。
《チューブの中の女》
管の中から女性の顔と足が見える。顔がぴったりハマった様子ですが、体はどうなっているのでしょうか。肩が無いようなので、一般的な人間とは違う形態の人なのかもしれません。
《立方体の中の男》
枠にはまった白い男性は、何か悲痛な叫びをあげているような表情。そして、男性の足元には、男性よりも一回り大きい人の跡が。立方体から出るために自らの身長を小さくすることに成功したが、まだ頭がつかえてしまって嘆いているのでしょうか。
美術館のシンボル・壁男
クレマチスの丘のシンボルといえばこちらの《壁をよじ登る男》。旅行雑誌などでもお馴染みのキャラクターです。
この男は壁を越えて脱出しようとしているのか、それともただの遊びなのか・・・。男の服装がスーツということを考えると、これは遊びでは無さそう。何かから逃亡しようとしているのかもしれません。
その顔は少しポカーンとしているようにも見えます。登った先でその男の目に入ったのは、想像もしなかった世界なのでは。コミカルにも不気味にも見える、とにかく目を引く作品です。
壁男の裏側はどうなっている?
私はずっとこの男の下半身が気になっていました。このように書くと若干卑猥ですが、いろいろなところで見かけたこの男の写真は全て上半身のみ。1度も裏側を写した写真に出会ってこなかったのです。
この男の下半身はどうなっているのだろう。そもそも下半身は存在しているのだろうか。
その答えはコチラ!!!
意外と普通でした。
気になるのは裸足という点。スーツであることからきっと革靴を履いていたところ、壁を登るために脱ぎ捨てた・・・・やっぱり何かから逃げるための脱出に見えます。
すぐ近くにはガラスの壁にくっつく男。壁をよじのぼることができなかった彼は、何かを主張しているようには見えません。壁と一体化しようとしているかのようです。
説明が少なく、インパクトがある作品は、ストーリーがいろいろと浮かんできてとっても楽しい。想像力がかきたてられる美術館です。
すごく余談なのですが、ヴァンジの作品を見ていると、漫画「進撃の巨人」が脳裏を過るのです。無垢な表情の全裸の成人男性や、壁と融合を果たす人間など、作中に多数登場する巨人と重なります。特に公言されているわけではないようですが、諫山先生はヴァンジに影響を受けているのではないでしょうか?
次回は、同じくクレマチスの丘にあるベルナール・ビュフェ美術館へ向かいます。
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