ポスト・アポカリプスを感じる廃トンネル『旧石部隧道』(静岡市)

静岡県

海岸に広がるのは崩壊した旧石部トンネル。散らばるレンガや瓦礫が終末を感じさせ、まるで異世界のような光景が広がっています。アクセス難易度もそれほど高くなく、比較的気軽に見に行くことができる廃隧道です。

訪問日:2023/2/25(土) ※掲載の写真・情報は訪問時のものです

ロープを頼りに藪を越えて

用宗(もちむね)方面から用宗街道を南に進み、トンネルを越えてすぐ左手に入り口があります。

道と呼んで良いかぎりぎりのラインですが、ガードレールが途切れているのでわかりやすいです。よく見ると「旧石部隧道 坑門跡」と記された白い小さな看板もあります。

序盤は整備された水路を下って行きます。なかなか傾斜が急ですが、親切にロープが設置されているため、軍手などがあればすいすいと下ることができます。訪問した冬場は水が流れていなかったので水路の中を進めましたが、雨の日の翌日などは注意が必要だと思います。

ロープが途切れたあたりからは、水路から左へそれて藪の中へ。ここからは少し道がわかりにくいのですが、かろうじて草木が払われている方へ進めば大丈夫。

薮も開けてきたかなというところで、仲良く2つ並んだトンネルが見えてきました。旧石部トンネルは上下線で分かれていたため、2つのトンネルが並ぶカタチとなっているのです。

草木が茂っていたり、ロープにつかまったりとアドベンチャー感満載の道ではありますが、時間にしてわずか5分ほどなので楽々でした。夏場に訪問したらきっと植物や虫が元気いっぱいなので、それなりの服装で挑んだ方が良さげです。

トンネル内部へ潜入

下ってきた道は、ダイレクトにトンネルの中へと続いています。入口はカゴに入った資材のようなものが積まれているのが見えますが、奥は暗闇。ちょっとコワイですが、中へと進んでみます。

暗闇に飲まれてしまうかと思いきや、すぐに行き止まり。石や砂が詰まっており進めませんが、ゴールがあってちょっとだけ安心しました。

真っ暗なトンネルの奥から見る輝く外の世界。闇の住人の気持ちになって、外界からの来訪者を迎え撃ちたくなります。

瓦礫が散らばる異世界

トンネルを出ると、目の前には崩落したレンガが散らばる海岸。もう少し歩き回ってみたいのですが、トンネル入口は海岸よりも5mほど高い位置。どこからか降りることはできないでしょうか?

あたりを見回すと、ありがたいことにハシゴが設置されていました!後ろ向きになり降りてみたのですが、これがかなりのスリル!外れないようにワイヤーは付けられていますが、しっかり固定されているわけではないので、ものすごくガタガタ揺れます。本当にゆっくりじゃないと進めません。

さあ、降り立った海岸!目の前には散らばる瓦礫。世紀末でハッピーエンドを迎えたかのような、不思議な気分。

誰もいない世界・・・かと思いきや、釣り人の男の子4人という先客の姿。釣りをしながらも、お菓子を広げたり、瓦礫の上で日向ぼっこしていたりと、気ままに過ごす姿がなんとも微笑ましい。きっと彼らにとってはとびっきりの秘密基地なのでしょうね。

見上げると、先ほど内部に入ったトンネルの隣のトンネルが見えます。こちらは道が繋がっていませんが、なぜかベルトが垂れており登ることができるようになっています。私は普段着で来てしまったので断念しましたが、冒険好きな方はきっと登ってしまうのでしょうね。

散らばるトンネルの破片

せっかく海岸線まで降りてきたので、波打ち際を少し歩いてみよう!トンネルに背を向けて西へ進むと、散らばる石と瓦礫。ごろごろと転がる大きな石も、きっとトンネルの一部だったりするのでしょうね。

振り返ると、トンネルが良く見渡せます。写真の右側、海の上に架かる橋は、石部海上橋。せわしなく行き交う車を眺めていると、自分だけ別世界にいるような錯覚に陥ります。

この辺りは「大崩(おおくずれ)海岸」と呼ばれる場所。崩落が多いことからこのような名で呼ばれるようになったそうですが、崩れたトンネルはまさにこの地名にぴったりです。

これ以上進むのは困難なので、この辺りで引き返します。

複雑な歴史を持つ隧道

このトンネルの歴史を調べようとすると、なかなかややこしい。

今回訪問した「旧石部トンネル」は鉄道のために造られたトンネル。その先に続く「磯浜トンネル」とともに、1889年(明治22年)の東海道本線開業に合わせて造られました。

1944年(昭和19年)、ここより少し内陸側に新しく「日本坂トンネル」が完成すると、鉄道トンネルとしての役目を譲ることに。以後、しばらくは自動車のための道路用トンネルに転用されます。

1948年(昭和23年)にアイオン台風が襲来、その被害を受けて「旧石部トンネル」の焼津側が崩壊してしまいます。

その後、東海道新幹線建設が行われると「日本坂トンネル」は新幹線に利用されることに。そこで東海道本線が、「旧石部トンネル」「磯浜トンネル」へと移されます。その改修工事に伴い、「旧石部トンネル」は内部で方向が変わり「磯浜トンネル」へとドッキング。現在の「石部トンネル」が完成します。1962年(昭和37年)、紆余曲折を経て、再び東海道本線が帰ってくるカタチとなりました。

地中で方向が変わったため「旧石部トンネル」の焼津側の出口は使用されることがなくなります。それがココです。

わかりにくいでしょうか・・・?安心してください、私もよくわかっておりません。詳しく知りたい方は、お近くの「鉄道と隧道に詳しい方」に聞いてみてください!

おまけの駐車場情報

駐車場は入口の目の前にあります。1時間100円、無人でコインを投入するタイプです。Google mapのクチコミには、「資材置き場となっており使用不可」といった書き込みもありましたが、2023年2月時点では利用可能でした。

この駐車場がある用宗街道は、道幅が狭くくねくねとしています。それなりに交通量もあるため、事前に駐車場の位置を確認してからの運転がおすすめ。

うっかり通り過ぎてしまうと、Uターンポイントはかなり先まで行かないと無いので、慎重派な方は、Google mapのストリートビューで下見しておくのがおすすめです。

余談:消えた少年たち

一通り散策を終えて、そろそろ戻ろう。そう思ったときに、ちょっと不思議なことが。

先ほどまでいた4人組の姿がどこにもないのです!!!!

この場から去ったのかな、と思ったのですがそれほど広い空間では無いため、彼らがハシゴで移動していたら気が付けるはず。トンネル周辺は反対側の海岸も含めていろいろ見てまわったのですが、他にここまで来るルートは無さそう。

ちょっとゾクッとしましたが、廃墟と心霊スポットは別物と考えているため、ホラー展開で終えるわけにはいきません。

きっとこの海岸のどこかに、彼らしか知らない秘密のルートや隠れ家があるはず。心優しい彼らは、写真撮影をする私に気を使って、この場所を譲り姿を消してくれたに違いありません。

異論は認めません!!

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