古来より港町として栄えた坊津(ぼうのつ)に建つ「輝津館(きしんかん)」は、貴重な歴史資料や読み物パネルが充実した歴史資料館。密貿易、一条院、薩摩塔といった、他ではお目に架かれないようなマニアックな歴史を学ぶことができます。
海辺に建つ資料館
現在の福岡県博多市の博多津、三重県津市の安濃津とともに日本三津(さんしん)の一つに数えられる歴史的港町「坊津」。
目の前に海が広がる開放的なロケーションに建つ輝津館(きしんかん)は、そんな坊津の歴史を知ることができるミュージアム。
貿易港として栄えた坊津と中国や琉球等との交易関連資料や、一乗院を中心とした坊津の仏教文化にまつわる資料、漁具をはじめとする様々な民俗資料など、貴重な文化財が展示・公開されています。
館内は撮影禁止
2023年5月8日より南さつま市役所の坊津支所が移転。建物の1階は役所となっています。場違いな雰囲気を感じながら、役所の傍らにある受付で入館料を支払います。
階段を上った2階が展示室。展示室1では「海上交流の全盛」、展示室2では「八相涅槃図の世界 一乗院の盛衰と仏教文化」とそれぞれのテーマに合わせた展示が広がります。民俗展示室では、祭りや漁業をテーマにした「坊津くらしと営み」、交流展示室では現代のブラジルや中国との交流を示す「今も続く海の交流」といった内容の展示も。
それぞれ読み物も多く、思ったよりも充実した展示内容。一点気になるのは、展示物はもちろん、館内では写真撮影が禁止されているということ。様々な事情があることと存じますが、記憶に残りづらいのがちょっともったいなく感じてしまいます。
※画像なしでは伝わりにくいかと思いますので、いただいたパンフレットの写真をイメージとして掲載しております。
海上交流と密貿易
展示室1の「海上交流の全盛」では、古来より東アジア海上交通の要衝であった坊津の歴史を知ることができます。
この地で見つかった琉球の「荒焼徳利(あらやちとっくり)」や、中国の「唐人壺」「中国磁器」などが展示されており、様々な国と交流してきたことがわかります。交易に使用されていた千石船や帆前船の模型、さらには大型関船の舵の身木も横たわっており、海上交流のイメージがしやすい展示です。
面白かったのが、江戸時代の鎖国下で行われていたという「密貿易」について。ここ坊津は薩摩藩の密貿易の地であり、船の漂着などを装った巧妙な手口にて行われていたそうです。
しかし享保年間に入ると、大規模な密貿易の取締が行われます。唐物の取り引きでにぎわっていた町は、一夜にして寒村になってしまったそう。これを「享保の唐物崩れ」と呼ぶそうです。
有力寺院・一乗院の跡
続く展示室2の「八相涅槃図の世界 一乗院の盛衰と仏教文化」では、かつて坊津にあった真言宗の寺院、一乗院を中心とした仏教に関する展示。
中世後期に最盛期を迎えた一乗院。1546年には後奈良天皇の勅願所として指定されます。島津氏からも信仰され、近世には250石以上の寺領を持つ有力寺院でした。そんな歴史ある寺院ですが、明治時代におこった仏教排斥運動・廃仏毀釈の影響を受けて廃寺となってしまいます。
ここでは、破却を逃れた寺宝が展示されており、往時を偲ぶことができます。こちらの「青磁瓶(せいじへい)」は、坊泊小学校建設中に一乗院跡から出土したもの。
インパクトがあるのが「絹本著色八相涅槃図」。縦2.9m、横2.64mという大きな仏教絵画で、釈迦の一生、さらに入滅後の出来事も描かれています。もともとは一乗院にあり、廃寺になってからは民間へ渡り、その後は龍巖寺に納められていたそう。非常にわかりやすい自動音声の解説もあり、ベンチに腰かけてじっくりと拝観することができます。
謎多き薩摩塔
1階のエントランスホールに置かれていた石塔。宝塔や五輪塔、宝篋印塔と似ていますが、よく見ると異なるデザイン。須弥壇の上に厨子状の塔身、そこに屋根が置かれています。
薩摩で発見されたことから「薩摩塔」と呼ばれています。現在では長崎県、佐賀県、福岡県といった九州西部を中心に見つかっているそう。ここに展示されているものは坊津一乗院に安置されていたものとのことです。
実はこの石塔、その存在が認識されたのが昭和中期頃。まだ謎が多く、どのような信仰で造られたのか、デザインにはどのような意味があるのかといった詳しいことはわかっておりません。
中国に似たような造形の石塔があるそうで大陸との交易の影響が考えられていますが、同じものは見つかっていないそう。
ちょっとした民俗資料館くらいの気持ちで訪問したのですが、想像以上の見応えでした。「密貿易」に「一条院」、そして「薩摩塔」と気になるワードに多数出会うことができて大満足。薩摩のディープな歴史に興味ある方にはおすすめのミュージアムです。
アクセスと営業情報
枕崎駅より車で約20分ほどなので、枕崎観光と合わせての訪問がおすすめです。
開館時間 | 9:00~17:00 |
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休館日 | 無休 |
料金 | 310円 |
公式サイト | https://kanko-minamisatsuma.jp/spot/7565/ |
※掲載の情報は2023年11月時点のものです。最新情報は公式HPにてご確認ください。
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