散居村にとけこむ異国情緒あふれる建造物『小矢部メルヘン建築』(小矢部市)

富山県

富山県小矢部(おやべ)市の街中に乱立する洋風な建築群。これらはメルヘン建築と呼ばれる公共の施設。国内や国外の著名な建築をモチーフにして造られており、のどかな散居村の田園風景に強烈な異国情緒を匂わせます。

公式HP:https://www.oyabe.info/marchen/marchen.html (小矢部市観光協会)
訪問日:2014/5/26(月), 2020/7/25(土)

メルヘンの街・おやべ

小矢部市の街を走っていると、突如現れる洋風な建物。田園風景の中にいきなりあふれ出す異国情緒に強烈な違和感を感じます。

小矢部市では、このような建造物があちこちに建っています。1件だけだと違和感を覚える光景も、次々と目に入ってくるため次第に感覚が慣れてくるから不思議。

かつての異人館?それとも博物館?いいえ、こちらは全て公共施設。公民館や学校など、人々が日常的に利用している場所なのです。この建造物たちは「メルヘン建築」と呼ばれています。

これらの建築は、松本正雄小矢部市長(在任期間1976~86年)による「文化的価値を持ち、地域の人々に親しまれ、愛される建物を作りたい」という思いの元で造られました。

街にとけこむメルヘン建築

小矢部の街にメルヘン建築は全部で35件。かなりの数が存在しているため、全てをまわるのはかなりハード。数件に狙いを絞って巡ってみました。

メルヘン建築は、それぞれ国内や国外の有名な建築をモチーフにされているのがポイント。現物と比較してみると、そっくりな部分やアレンジしている部分を見つけて楽しめます!

メルヘン建築は観光スポットではなく公共施設。特に保育所や学校は部外者の立ち入りが禁止されていますので、訪問時はご留意ください。

埴生公民館

淡いオレンジ色の外壁と赤いとんがり屋根が印象的なこちらは公民館。花壇では色鮮やかな花が咲いており、まるでイギリス郊外に来たような気持ちです。

モデルとなったのは、加賀藩の旧前田邸を利用して造られた東京都近代文学博物館。文学博物館は2002年に閉館しており、現在は「旧前田家本邸」として見学可能です。

旧前田家本邸は、15〜17 世紀なイギリスで流行したチューダー様式によって建てられています。植生公民館の入口も、少し潰れたような「チューダーアーチ」を描いており、その影響を感じることができます。

埴生保育所

クリーム色の建築がかわいらしいこちらは保育所。屋根の上にそびえる時計塔のおかげか、とっても学校っぽい印象です。手前にある遊具にも三角屋根が載せられており、メルヘン建築な仲間入りしようと背伸びしている感じがして可愛らしい。

モデルとなったのは明治神宮外苑の聖徳記念絵画館。全体的なバランス、そして2階まで伸びるアーチ部分などにその要素が見えます。
また、塔部分は銀座のシンボルともいえる服部時計店をモチーフにしています。このように、複数の建築をドッキングしているパターンも多いです。

武道館(脩道館)

レンガ風のオレンジ色の建築物。奥行きもあり、ズッシリ重厚感があります。内部は1階が柔道場、2階が剣道場、3階が弓道場となっており、大会も開催されています。

モデルとなったのは慶応大学三田図書館。色使いや入口の石のアーチがそっくりです。ポーチ(入口)部分は東京大学工学部をモチーフとしているらしいのですが、それほど類似性は感じません。

大谷中学校

田園の中にそびえる立派な建造物。まるでお城のような存在感のこちらの建物は中学校。本体の塔屋は東大安田講堂、正面は東大教養学部をモデルにしており、高さ47mの塔はオックスフォード大学の学生寮となんともインテリジェンスな並びです。

校舎の隣にある体育館は大阪中之島の中央公会堂がモデル。色味は異なりますが、かなりそっくりの出来です。入ることはできませんが、内部は国立劇場がモデルらしい。どのようにアレンジしているのか気になります。

松沢公民館

個性的なメルヘン建築の中でも、濃いオレンジ色でひときわ目立っているのがこちらの公民館。本体はボストン公会堂、塔屋はロンドンのセントポール寺院がモデルです。

「ボストン公会堂」という施設は検索で見つけることができなかったため未確認ですが、屋上に設置された緑色のドームは、わずかにセントポール寺院の雰囲気を感じます。

上から見下ろすクロスランドタワー

小矢部の街で最も高い建造物が、こちらのクロスランドタワー。高さ118mの大きな展望タワーで、地上100mの位置に展望フロアを供え、一般開放されています。

営業時間:平日:10:00~18:00/土日祝:10:00~21:00
料金:430円

展望室からの眺め。田んぼの海に民家がポツポツと島のように浮かぶ少し変わった町並み。これは「散居村」と呼ばれる独特の風景。ここ小矢部市や砺波市にまたがる砺波平野は、日本最大の散居村が広がります。

この展望室からは、田園風景にとけこむメルヘン建築を見渡すことができます。電柱や日本家屋に囲まれる大谷中学校は、まるで宮殿のようです。

オレンジ色の松沢公民館は、輪郭がくっきりとしているのでジオラマのように見えます。ポンッと置いたミニチュア模型みたいです。

変わりゆく街の景色

小矢部の街を彩るメルヘン建築ですが、建物の老朽化、少子化など理由で維持が難しく、少しずつ取り壊していくことが決まったそう。

2020年の時点では、長野県松本市にある開智小学校をモデルとした石動幼稚園が取り壊されており、跡地は市の駐車場として利用されるそう。

また、公共施設を減らし予算を削減するという方針も打ち出しています。それに伴い、メルヘン建築だけでなく、クロスランドタワーも2025年に解体が決定しているようです。

散居村+メルヘン建築という唯一無二のオリジナリティあふれる街並みが無くなってしまうのは、とても寂しく感じます。せめてもの救いは、自主的に解体を進めているというところ。災害や戦争によって壊されるわけではなく、キレイな形で終わりを迎えられるのは、建物にとって幸せなことかも知れません。

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