夢に見てはいけない?黄泉の穴とされる『猪目洞窟』(出雲市)

島根県

静かな港町の海辺にぽっかりと空いた巨大な洞窟「猪目洞窟(いのめどうくつ)」。入口はとても広いのですが、奥へ進むと狭く暗闇の世界へと変わっていきます。この穴の先は黄泉の国へと繋がるというウワサですが、いったいどのような伝承が残されているのでしょうか。

訪問日:2022/5/5(木)

アクセスしやすい洞窟

猪目洞窟は、出雲日御碕灯台からは車で20分ほど、出雲大社からは車で25分ほどの場所にあります。車さえあれば、出雲エリアの観光とセットで訪問しやすい位置にあります。

伝説が残る洞窟ときくと、山の中にあったり船でしか行けない場所にあったりとアクセス難易度が高そうな印象を受けますが、この猪目洞窟は比較的アクセス良好。なんてったって、道路沿いにあるのです。

駐車場はありませんが、路肩に駐車できそうなスペースはあります。交通量も少ない道なので、軽く見学する程度なら問題無さそう。

漁港に溶け込む姿

猪目洞窟は高さ約12m・幅約30mとかなりの大きさ。間口が広いため、非常に入りやすい雰囲気の洞窟です。

入口付近にはドラム缶や資材、漁具がたくさん置かれています。伝説の残る洞窟として見ると少々神秘性には欠けますが、この洞窟は1948年に漁港の改修工事をおこなった際に発見されたもの。港町の生活に溶け込んでいる姿は逆にリアルな気がします。

暗闇の先は黄泉の国?

入口は港町の生活感あふれる様子でしたが、奥へ進むと漆黒の世界へ。奥行きはかなりあるように見えますが、この先はどうなっているのでしょうか?

713年に元明天皇によって編纂が命じられ、733年に完成した『出雲国風土記』には、「出雲郡宇賀郷に洞窟があり、夢の中でこの穴に行くと命を落とす。そのため、土地の人は黄泉の坂・黄泉の穴と呼んでいる。」 との記載があります。

猪目洞窟こそが、ここに記載された洞窟ではないかと考えられています。

この暗闇の向こうは、黄泉の国へと続いているのでしょうか?風土記の記載に従うと、夢の中でなければ進んでも問題ないような気もしますが、人の気配の無い真っ暗な洞窟を進む勇気は私にはありませんでした。

このような怖い伝承を聴くと、その真偽よりも「人を近づけないために作られた話なのではないか」と、ついつい勘ぐってしまいます。危険な場所であったのか、何か事件などがあって忌避したかったのか、それとも何かを隠していたのか・・・。想像は膨らみます。

発見された人骨

この洞窟からは、なんと人骨が発見されています。

このように書くと何か事件性を感じるかもしれませんが、見つかった骨は弥生時代以前のもの。

13体以上もの人骨が発掘されており、かつてこの洞窟は埋葬の場所であったと考えられています。沖縄など南の海に生息しているゴホウラという巻貝をはめたものもあり、当時の交易範囲の広さを伺い知ることができます。

埋葬の地と考えると、先ほどの「黄泉の国へと繋がる」という話も非常におさまりが良く見えてきます。出雲国風土記が編纂された頃の奈良時代の人々が、人骨が安置された真っ暗な洞窟を見て、黄泉を連想したのかもしれません。

国史跡&日本遺産に認定

この洞窟からは、人骨に加えて、縄文式土器、弥生式土器など様々な遺物が出土しております。洞窟遺跡としての価値が認められ、1957年に「猪目洞窟遺物包含層 (いのめどうくついぶつほうがんそう) 」として国史跡に指定されました。

さらに2017年には、稲佐の浜・日御碕・出雲大社本殿などと合わせて日本遺産「日が沈む聖地出雲~神が創り出した地の夕日を巡る~」の構成文化財にも選ばれます。

ミステリアスな伝承の残る洞窟ではありますが、遺跡としても非常に価値が高いものであるようです。

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