全国各地に残る不老長寿の八百比丘尼伝説。ここ福井県小浜市にある空印寺というお寺は、その伝説のラストの地として伝えられたいます。どんな伝説が残っており、どのような場所なのでしょうか?
八百比丘尼とは
八百比丘尼(やおびくに・はっぴゃくびくに)という伝説をご存じでしょうか。
普通の娘であった八百比丘尼はふとしたきっかけで人魚の肉を食べてしまい、不老長寿になってしまいます。17~18歳くらいの姿のまま、なんと800歳まで生きたという伝説が残っています。
若い状態を保ちつつも膨大な時間を得ることができるなんて、忙しい現代人の目には憧れの能力に映ります。しかし、夫や仲の良い友人らが次々とこの世を去る中でも一人生き続けるのはなかなか苦しいもの。
この娘は、やがて出家し「比丘尼」となって全国をめぐります。
小浜に残る伝説
八百比丘尼にまつわる伝説が残る場所は日本各地にありますが、ここ小浜市もその伝説の舞台の一つ。
この地に伝わる伝説では、全国をまわった比丘尼は、最終的にこの若狭の地にたどりつきます。800歳になった日に、小浜にある洞窟にて入定(永遠の瞑想)。後世の人々は、八百比丘尼と呼ぶようになったそうです。
そんな八百比丘尼入定の洞窟は、空印寺というお寺にあります。
実在する洞窟
洞窟は境内入ってすぐのところ。わかりやすい案内板があるため、迷うことなくたどりつけます。
木々に包まれた小さな入口、こちらが入定の洞窟。フェンスがあるため中に入ることはできませんが、その雰囲気は感じ取れます。入口は狭く見えますが奥行き8メートルもあるそうです。
中を覗いて見ると何やら難しい漢字が並ぶ板が貼り付けられています。見たことのない漢字が並びますが、目に付いた「玉皇大帝」という文字を調べてみたところ、中国道教における最高神とのこと。どうやらこの板は「玉皇大帝万能符」というものらしいのですが、八百比丘尼との関連は不明です。(何かご存じの方いましたら教えてください!)
各地に残る八百比丘尼伝説
新潟県佐渡市、群馬県前橋市、鳥取県米子市など各地に残っており、そのディティールはそれぞれ異なっています。
全国を行脚していたという八百比丘尼。何年かけたのかは定かではありませんが、彼女に許された時間を考えるとどこへでも行くことができたのではと思います。そのため、各地に足跡があるのはいたって自然です。
古い書物には、八百比丘尼を名乗る人物が不老長寿として見世物になり、料金を取っていたという記録があるそう。
伝説を利用して金儲けを考えた人物がいたことは想像に難くありません。しかし、利用しようと思う人が出るほど、八百比丘尼伝説が世間に広く普及していたことが感じ取れます。
八百比丘尼の名前
「後世に考えられた作り話」と言い切ってしまうのは簡単ですが、こういった伝説はできる限り信じる方向で考えたいもの。何かもう一押し信憑性を高めてくれる要素がほしいところです。・・・ここで気になるのが八百比丘尼の名前。本名がわかれば、もう少しリアリティが増してくるのでは!
八百比丘尼という名は800歳まで生きたからこそついた名前のはず。小浜の伝説でも「800歳で入定したから後世の人が八百比丘尼と呼ぶようになった」とあります。800歳生きる前は、ただの比丘尼だったのでしょうか?
さらに、比丘尼になったのも120歳のときとの記載も。比丘尼になる前の名前は無いのでしょうか?
父親が高橋長者(高橋権太夫)という記載はありますが、八百比丘尼の名前については全く見当たらず。地元の方に聞いてみたところ、『昔の女性はね、名前が無かったんだよね。』とのこと。
少し調べてみたのですが、かつて日本には本名を諱(いみな)とし、人に知られるのを避ける風習があったそう。名を知られるということは霊的人格を支配されると考えられており、親族や主君のみしか知ることはなかったといいます。
男性は主君への提出などから記録されている場合がありますが、社外的主従関係が乏しい女性にいたっては全く残っていないことの方が多いそう。平安時代を代表する紫式部や清少納言であっても、父親や夫の官職を用いた女房名という通称。本名は明らかになっていないそうです。
ということで、八百比丘尼の名前が残っていないということは伝説を疑わしくするものではなく、時代を考えればごく自然なことでした。
なお、八百比丘尼は椿を愛しており、全国行脚の際に日本各地で植樹したり、入定の際も洞穴入り口に植えていたそう。そんなところから「玉椿の姫」という素敵な別名もあるそうです。
思えば現代のネット社会においても、本名を公開することは様々なリスクが伴うため忌避されています。何百年もの時を経て、異なった理由から実名敬避俗が広まっているのはなかなか面白いですね・・・!
アクセスと営業情報
JR小浜駅より徒歩約10分。車の場合は小浜ICより約10分ほど。
今回私はマーメイドテラスとなりにある無料の「人魚の浜駐車場」に停めて町歩きとセットで訪問しましたが、お寺にも参拝者駐車場がありました。お急ぎの方は直接車でお寺に向かっても良さそうです。
コメント
[…] […]