香川県観音寺市にある豊稔池ダムは、石造りのお城のような風格をまとった姿が印象的なダム。地元の人々が力を合わせて造り上げたこの建造物は、国の重要文化財として今も大切に保存されています。
古城のような石積みダム
山の中に突然姿を表す豊稔池ダム(豊稔池堰堤)は、大正時代末に造られた農業用のダム。ヨーロッパの古城のような姿は、ダムマニアだけでなく多くの人から注目を集めます。
ダムの規模は堤高30.4m、堤頂長は128m。昭和以降に造られたコンクリートの巨大ダムに比べると少し小さく感じますが、間近でみるとなかなかの迫力。
柵などは設置されていないため、かなり近くまで接近することができます。ちょうど放水を行っており、勢いよく流れ出す水。暑い日だったので、飛び散るミストが心地良いです。
ダムの周辺は豊稔池湧水公園として整備されています。屋根付きの休憩所や洋式トイレもあり、お弁当を食べている人の姿も。5月に訪問したところ、ツツジがあざやかなピンクの花を広げていました。ダムとのコラボレーションも素敵です。
上からも見学可能
車で少しだけ移動すると、堰堤向かって右上あたりに駐車場があり、そこから眺めることも。木々に包まれた姿は、未開の地に眠る遺跡のようなたたずまいです。
天端(てんば)と呼ばれるダムの上部。石積みの先に、アーチが連なる姿が見えます。
よく見ると対岸にも人の姿がありますが、この天端を渡ることはできません。もし反対側の上部から見たい場合は、先ほどの下流部分にある豊稔池湧水公園から階段を登ることでアクセスできるようです。
地元民の努力の結晶
現在でも多数の溜池があるほど降水量が少ない香川県の観音寺市。この豊稔池ダムは、度重なる大かんばつへの対策として柞田川(くにたがわ)の上流に建造されました。
工事にあたったのは農家を中心とした地元住民。15万人にも及ぶ人々が力を合わせ、大正15年(1926年)から昭和5年(1930年)というわずか4年の短期工事により完成したそう。
老朽化により昭和63年(1988年)より改修工事が行われ、平成6年(1994年)に竣工。平成18年(2006年)には国の重要文化財にも指定されました。国内の近代的なダム建築の草創期であるころに築造されたことから、ダム技術史においても重要なダムであるそうです。
このダムによってできたため池、最初は「田野々池」という名前でしたが、香川県出身の三土忠造大蔵大臣が訪問した際に「豊稔池」と命名。豊かに稔(みの)ってほしいという願いが込められているそうです。
レアなマルチプルアーチ式
この豊稔池堰堤は、当時最新式であった「マルチプルアーチダム」という形式。アーチ式ダムの一型式であり、アーチ止水壁が複数連なるダム。多連式アーチダムとも呼ばれています。
豊稔池ダムは、この形式のダムでは、日本最古であるそう。
国内では他にはどこにあるのでしょうか?気になったので調べてみたところ、日本ではここと宮城県仙台市の大倉ダムの2基のみ。ただし「堤高30.4m/堤頂長128m」の豊稔池ダムに対して、大倉ダムは「堤高82m/堤頂長323m」とかなり大型。また、全面コンクリートでできておりアーチも2連であるため、類似点はあまり見つからないかもしれません。
アクセスと周辺情報
高松自動車道の大野原ICから車で17分ほど。
車で10分ほどのところにはフォトスポットたっぷりな山上公園が広がる「雲辺寺ロープウェイ」があります。また、車で25分ほどのところに「銭形砂絵&道の駅ことひき」も。合わせて訪問がおすすめです。
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