幾何学的なフォルムのミュージアム『和歌山県立近代美術館』(和歌山市)

和歌山県

和歌山郷土の作家をはじめ、多数の近現代美術をコレクションする大きな美術館。様々な展覧会に加えて、黒川紀章による建築も見応え抜群。彼の代表作である、あのメタボリズム建築の一部も見ることできます!

訪問日:2025/10/21(火) ※掲載の写真・情報は訪問時のものです

個性的な建築の美術館

和歌山城のすぐ隣にある、ひときわ目立つ建物。こちらは和歌山県立近代美術館。1963年に和歌山城内の二の丸跡で開館、1994年に現在の場所に新築移転しました。

郷土作家を中心に、国内外の近現代美術を多数収蔵しております。英語表記の「The Museum of Modern Art, Wakayama」を略して「MOMAW」とも呼ばれているそう。読み方は「モーマウ」でしょうかね?

直線と曲線が混じる幾何学的な建築、担当したのは黒川紀章。「国立新美術館」や「広島市現代美術館」、「名古屋市美術館」など多数の美術館を手掛ける世界的な建築家です。

この建築は、建設省(現:国土交通省)が設立50周年を記念して1998年に決定した「公共建築百選」にも選ばれています。

謎の白いカプセル

入口のそばに置かれていたこの白い箱。一見すると何か臨時作業用のプレハブに見えなくもないですが、ここが黒川紀章設計という話からピンときました。

黒川紀章といえば、中銀カプセルタワービル。東京の銀座に建てられた、カプセル状の居住スペースが組み合わさった個性的過ぎる建物。老朽化により2022年に解体されるも、140カプセルのうち23カプセルが取り外されて保存されています。

そう、この白い部屋はそのカプセルの一つ、オリジナルタイプの「A908」というものです。中に入ることはできませんが、窓から内部を覗き見ることができます。SONYのテレビやオーディオ、ダイヤル式の電話が壁に埋め込まれた室内。居住スペースとしては少し手狭な感じはありますが、宿泊施設だったらとっても快適そう。

館内には渡辺和雄による《中銀カプセルA908保存プロジェクト(MOMAW A908)のためのポスター》も展示されています。「1972年生まれのA908を保存したいのです」というメッセージが記されておりました。

多彩な展覧会を開催

カプセル見学も終えたところで館内へ。真っ白なエントランスホールは、とっても広々としています。

訪問した2025年10月21日に開催されていた展覧会はこちらの3つ。

①MOMAWコレクション 名品選
会期 : 2025年09月27日(土)~2026年01月08日(木)
②MOMAWコレクション 現代の美術
会期 : 2025年04月12日(土)~2026年04月05日(日)
③生誕120年 村井正誠展 色のやどり・形のうぶすな
会期 : 2025年09月27日(土)~2025年11月30日(日)

②は展示替え期間だったため休止中でした。ちょっと残念。

静かなアートスペース

「①MOMAWコレクション 名品選」は、和歌山ゆかりの作家を中心に、様々なコレクションが展示されています。

近代洋画の先駆者である川口軌外(かわぐちきがい)、明治〜大正期の洋画家である中村彝(なかむらつね)など、初めて出会う画家の作品ばかり。撮影禁止だったのがちょっとだけ残念ですが、私の心の中に刻まれました。

2階にはBRING BOOK STOREというカフェが入っています。キーマカレー、パスタ、ドリンク、季節のタルトなどを扱う落ち着いた雰囲気のお店。店内に置かれた本棚には、アートに関する書籍や絵本がずらりと並んでいます。

2階へ続く階段は、踊り場がオレンジに染まっております。真っ白な中に登場する色彩にハッとします。

村井正誠作品の変遷

最後は「③生誕120年 村井正誠展 色のやどり・形のうぶすな」へ。村井正誠(むらいまさなり)は、抽象絵画の草分けとして知られる画家。1905年に岐阜県大垣市に生まれ、幼少期は和歌山県の新宮町(現在の新宮市)で過ごしました。1928年にヨーロッパへ渡り、パリで様々な芸術を学びます。

作品はほぼ年代順に並んでおり、その作風の変遷が非常に面白いです!!写真撮影可能でしたので、なんとなく私が気になった作品を紹介しつつ、その変わっていく様子をお伝えしたいなと思います。

《ロンバルディア》1929年

「ヨーロッパ滞在時の最も重要な作品は何か」という問いに対して答えたという重要な作品。それまでの風景の写生から、新たな世界を切り開いた作品なのです。なお、この絵画はマティスの静物画の模写に重ねて描かれています。

《アカデミヤ・ベル・アルチ》1934年

フィレンツェのアカデミア美術館の展示室を描いた作品。案内パンフレットの写真をもとに帰国後に描いたものであるそう。ラピスラズリのようなブルーの色合いが美しく、惹き込まれそうになります。

《母子像》1951年

ポップアートのような図形化された作品。黒いくっきりとした線で描かれているのは寝転がる子ども。上から覗き込むのは、題名から考えるに母でしょうか。解説によるとキリスト教美術の影響があるそう。

《黒い線》1962年

黒い線は広がり、画面を真っ黒く塗りつぶされた作品に変わっています。キャンバスには絵の具を盛って作られた立体的な線が何本も走っています。断面が三角になっているため、鋭い印象です。よく見ると、右上だけ塗り残したかのような白い部分があります。あえて完成させない未完成の美学かと思いきや、「以前の仕事とのつながりまで塗り込められてしまうのを防ぐため」とのことです。

《強そうな人》1989年

今回の展覧会のポスターにもなっている作品。黒い線は黒い斑点へと変化。タイトルは「人」ですが、私の知っている人の形ではありません。自画像であるかもしれないとのことですが、目に映る人間ではなくもっと概念的な人を表現しているのでしょうか。

今回初めて知った村井正誠という画家。なんだかとっつきにくそうな印象でしたが、作品の変遷を追いながら見ていくとちょっとだけわかったような気持ちになれました。世田谷区に「村井正誠記念美術館」というミュージアムがあるそう。都内に戻ったら行ってみようかな。

ちなみに、来年はこんな万博に関連する展覧会と予定しているようです。万博たっぷり楽しんだ身としてはとっても気になります!

万博のレガシー —解体と再生、未完の営為を考える—
会期 : 2026年02月14日(土)~2026年05月06日(水)

アクセスと営業情報

JR「和歌山駅」または南海電鉄「和歌山市駅」からバスで約10分、「県庁前」下車、徒歩2分。

開館時間 9:30~17:00
休館日 月曜
料金 常設展:400円/企画展:展示による
公式サイト https://www.momaw.jp/

※掲載の情報は2025年10月時点のものです。最新情報は公式HPにてご確認ください。

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