茨城県の五浦(いづら)にゆかりのある日本画家の作品をはじめ、多数の作品を所蔵・展示する近代美術館。所蔵作品展に加えて、ユニークな企画展も開催しており、たっぷりとアートに浸ることができるスポットです。
湖畔の近代美術館
茨城県の水戸市、千波湖の畔に建つのは茨城県近代美術館。茨城県ゆかりの作家を中心に、国内外の美術作品を4,000点以上収蔵しています。開館は1988年。建築家の吉村順三が設計を担当しています。
広々としたエントランスホール。格子状の天窓からは自然光が降り注ぎます。
来館者を出迎えるように立つのは《三つの影》オーギュスト・ロダン。左手を重ねる3人の男性。重厚感のある彫刻作品ですが、かしげた首や、拳を握っていない半開きの手からは不安定さも感じます。実はこの作品、《地獄の門》の頂上に置かれた像を独立させ、拡大したもの。
多彩な展覧会を開催
この美術館では、所蔵作品展と企画展を開催しています。料金は所蔵作品展のみだと320円、企画展+所蔵作品展で1,000円でした。
訪問した際は、以下の3つの展覧会が開催中。
①日本の近代美術と茨城の作家たち 夏
会期:前期 2024年6月25日(火)~8月4日(日)/後期 2024年8月7日(水)~9月21日(土)
②フシギな作品、大集合!
会期:2024年6月25日(火)~9月21日(土)
③つくる展 TASKOファクトリーのひらめきをかたちに
会期:2024年7月20日(土)~9月23日(月・振)
とりあえず所蔵作品展だけで良いかなと思ったのですが、なんだか楽しそうな雰囲気だったので、企画展も見ていくことにしました。
①日本の近代美術と茨城の作家たち 夏
まずは所蔵作品展「日本の近代美術と茨城の作家たち 夏」へ。岡倉天心のもと茨城県北部の五浦に移り住んだ横山大観、菱田春草、下村観山といった「五浦の作家」、牛久沼に住んで自然を描いた小川芋銭など、郷土ゆかりの作家の作品を集めた展示です。
《隠棲》横山大観
ぼんやりと幻想的な雰囲気の作品。輪郭線が描かれない朦朧体と呼ばれる手法で描かれており、西洋の抽象画のようにも感じます。右側の岩と下部の人物以外のスペースはモチーフが描かれておらず、空白を恐れない大胆さも感じます。
《高士観瀑》下村観山
滝を左幅に、それを東屋から眺める高士を右幅に描いた対になる作品。一見すると別々の作品に見えますが、下部を覆う靄の表現が2つの世界をリンクさせています。
《五浦ノ月》菱田春草
先程の横山大観と同じく、無線描法である朦朧体を試みた作品。月明かりに照らされる海面の色が淡いグラデーションを描き、空間の奥行きを感じさせます。キレイな満月には松の枝がわずかにかかり、何かを暗示しているのではと考えさせられます。
《月輪穿沼》小川芋銭
中国・明の時代の随筆に因んだ墨の作品。「水面に差し込んだ月は焼き付けられたようでも痕跡を残さない」という意味を持ち、そこには「物事の本質である無を悟り、自然体でいれば自由に生きていける」という意味にも捉えられるそう。ぼんやりとした作品ですが、水面と陸地の境界線はくっきりとしており、全体が掴みやすい。
日本画だけでなく西洋画も。国内外の作品を比較してみると、お互いの影響を感じることができます。
《ポール=ドモワの洞窟》クロード・モネ
フランス・ブルターニュ地方の海岸を描いた作品。筆の動きで険しい岩肌やブルーの海面が表現されており、力強い印象です。
《白菊の図》エドゥアール・マネ
目を引くのはそのキャンバスの形。扇形という独特のカタチであり、そこには菊の花を描かれております。これは、当時流行したジャポニズムの影響であるそう。
②フシギな作品、大集合!
今回訪問した際は2つの所蔵作品展が開催中。もう一つがこちらの「フシギな作品、大集合!」。先程の所蔵作品展とは打って変わり、モダンで刺激的な作品が並んでいます。
《邯鄲》エミコ・サワラギ・ギルバート
「雨ニモマケズ」と宮沢賢治の詩が写されたキャンバス。よく見ると下部にうっすらと人の顔が浮かび上がってきます。さらに「東日本大震災追悼」の文字も。邯鄲(かんたん)というタイトルは、震災が夢であったらという思いから中国の故事「邯鄲の枕」にちなんでいるそう。
《午睡》遠藤彰子
空間が歪んだように感じる他支点的構図の作品。楽しくも不安を感じるため眺めていると方向感覚を見失いそうになりますが、奥の水平線で何とか保つことができます。
《大氷瀑布図》田中武
昭和57年福岡県生まれの作家による、存在感抜群な作品。江戸時代の絵師・円山応挙の影響を受けたという瀑布図であり、真っ黒な紙と真っ白な絵の具のコントラストがとっても鮮やか。滝壺にあたる部分は床に垂れるようになっており、平面でありながらも空間を感じさせる仕上がりです。
③つくる展 TASKOファクトリーのひらめきをかたちに
2階の企画展示室で開催されているのが「つくる展 TASKOファクトリーのひらめきをかたちに」。2012年に結成されたものづくりのプロ集団TASKOが送るユニークな企画展示です。入口のこの展示、紙、立体、PCディスプレイでタイトルを示しており、この時点で早くも楽しい雰囲気があふれています。
黒い斜面をピンポン玉サイズの球体が動く《マグ・レール》。もぞもぞとした動きがクセになる。磁石のついたらチェーンが動力であるそう。
四角い箱から吹き出す風に乗る《うかぶ風船》。風は時折止まるのですが、不思議と落下しない絶妙なバランスです。
音楽とライトの《ル・ディスコシャンデリア》。3色のマットに人が乗ると、音楽が速くなったり、光の色が変わったり。操作して遊ぶことができます。
最後に登場する《パフューマリー・オルガン》。オルガンを演奏すると、音階に合わせた香りが吹き出すという、聴覚と嗅覚に訴える作品。調香師であるセプティマス・ピエースが提唱した46の音に香りが紐付けられた「香階」を元にしているそう。
壁には設計図が貼られており、作品の仕組みが描かれています。美術館というより科学館的な楽しみ方もできます。もちろん、難しいことなんて考えずに、遊ぶこともできます!!例えるなら、「ピタゴラスイッチ」的な雰囲気でした。
アクセスと営業情報
水戸駅南口から徒歩約20分。
開館時間 | 9:30~17:00 |
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休館日 | 月曜、年末年始 ※臨時休館日あり |
料金 | 所蔵作品展:320円 |
公式サイト | https://www.modernart.museum.ibk.ed.jp/ |
※掲載の情報は2024年8月時点のものです。最新情報は公式HPにてご確認ください。
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