森の中にひっそりと巨大な石が立ち並ぶ不思議な空間。まるで未開の地に残された古代遺跡のように、厳かで神秘的な光景が広がります。草木に溶け込み自然に帰りつつあるその姿からは、廃墟にも通ずる退廃的な美しさを感じ取ることができます。
比較的良好なアクセス
採石場があるのは群馬県太田市の八王子丘陵。山奥のような雰囲気ですが、比較的市街地の近くにあります。周辺には「ジャパンスネークセンター」や「三日月村」などの観光地がそろっており、東武桐生線の藪塚駅からも徒歩15分ほど。
Google Mapにて目星をつけて、路肩のスペースに車を停めます。そこから石切場まではちょっとした山歩き。舗装されていませんが、道は比較的なだらか。距離も100m程度なのであっという間です。
すぐに木製の歩道が出てきて歩きやすくなります。巨岩のゲートが見えてきたら、石切場はもうすぐそこ。
荘厳な石の神殿
巨大な岩の壁に囲まれた圧巻の空間。木々のざわめきと鳥の声だけが響き渡る静かな世界が広がります。
垂直に反り立つ岩肌には、ツタやシダなどの植物が絡みつく。さらに、岩の上に生えた木は、根を岩肌にそって伸ばしています。あと数百年もすれば、森に包まれてしまうことでしょう。
「古代遺跡」「石の神殿」など様々な形容がされる場所ですが、その正体は石材を切り出していた採石場。儀式や伝説とは距離のある、産業系の遺跡なのです。
採石された藪塚石
この石は、火山活動によってできあがった軽石凝灰岩が、地殻変動によって隆起し、地上に露出したもので「藪塚石」と呼ばれています。
明治時代に藪塚石伐株式会社が創立し、多くの石が切り出されました。軟らかく加工がしやすい藪塚石は、建築物の土台や鉄道の敷き石、火に強いことから竃(かまど)として多く利用されていたそう。採石場から藪塚駅までトロッコ列車の鉄道が敷かれ、最盛期には350人もの人が従事しておりました。
しかし、水に弱く、割れ目が多いなどの欠点が目立つようになってきます。次第に栃木県の大谷石など他の石材に負け衰退。昭和30年頃には閉山してしまいました。
残る採石の跡
30mにも及ぶ巨大な岩肌には、あちこちに石を切り出した跡が残っています。
一部の岩肌には丸太がはめられており、足場らしきものが設置されています。現在は独立しておりますが、かつてはハシゴやロープなどが掛けられていたのでしょう。
到底登れるわけはないのですが、妙にワクワクしてしまいます。ゲームの世界だったら、アイテムを活用して進むことができそう。
天井を見上げると、「藤生石材」「菊」「カネタの屋号」などの印も残されている。天井付近まで作業者が登っていたことが想像できます。
つい比べたくなる北関東
採石場ときくと、栃木県の大谷石資料館、茨城県の笠間石切山脈が頭に浮かびます。北関東3県で並ぶと、ついつい比較したくなってしまいます。


確かに規模という点においては上記2ヶ所の方がずっとスケールは大きいです。ただし、いずれも入場料が必要な、きちんとした観光地。自然と溶け込む神秘的な姿はココが一番強く感じ取れました。
(スケールを求める方には、青森県の八戸キャニオンもおすすめです・・・!)
さらに詳しく知りたい方は、車で5分ほどのところにある藪塚本町歴史民俗資料館で学ぶことができるそうです。また、近くには西山古墳などの古墳群があり、その石室でも藪塚石を見ることができるらしいです!
※現在立ち入り禁止となっているという情報もあるようです。見学に行く予定の方はご注意ください。
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