近代日本美術の発展に大きな功績を残した岡倉天心ゆかりの地である茨城県の五浦(いづら)。この地に建てられた美術館では、岡倉天心に関する展示や、天心に縁の深い芸術家の企画展を開催しています。解説は豊富なので、知識が無くても学びに行ける美術館です。
海辺のアートミュージアム
茨城県最北に位置する北茨城市。福島県いわき市と隣接しており、県内の他の地域よりもいわき市との関係が深い、県境のまちです。
北茨城市を代表する景勝地として知られるのが、風光明媚な海岸線が広がる五浦海岸。ここでは、かつて岡倉天心を筆頭に多くの芸術家が移り住み、創作活動に励んでいました。この活動を記念して造られたのが、今回ご紹介します茨城県天心記念五浦美術館。1997年にオープンした美術館で、常設展示となる岡倉天心記念室に加えて、様々な企画展を開催しています。
岡倉天心に関する映像作品や五浦の地の空撮映像などを見ることができる「映像ギャラリー」や近代日本画に関する美術図書を集めた「美術情報ライブラリー」、太平洋を見渡すカフェ「Camellia」もあり、様々な楽しみ方ができる施設です。
設計を担当したのは内藤廣(ないとう ひろし)。三重県鳥羽市の「海の博物館」、「富山県美術館」、「高知駅」、「銀座線渋谷駅」など美術館、博物館、駅舎などを多く手掛ける建築家です。
岡倉天心記念室
常設展示が行われている岡倉天心記念室は、天心の生涯をわかりやすいパネルや写真で紹介しています。読み物が豊富なため、岡倉天心について全く無知でもここで学ぶことができます。
天心の遺愛品や、再現された書斎、さらには天心と交流の深い画家の作品も展示されています。
基本的に撮影はNGでしたが、唯一撮影可能であったのがこちら菱田春草の『帰漁』。輪郭線をなくした描法で空気や光を表そうとする革新的なスタイルでしたが、朦朧体と非難されてしまいます。
岡倉天心って何者?
岡倉天心は、1863年に横浜の貿易商の家に生まれました。幼い頃から英語教育を受けており、11歳にして現在の東京大学である東京開成学校予科に入学。かなりの秀才であったことがうかがえます。
在学中にお雇い外国人教師であるアーネスト・フェノロサと出会います。日本美術に造詣の深いフェノロサのもと通訳として行動を共にした天心は、美術に傾倒。卒業論文も「美術論」を書き上げました。
新進気鋭の画家の育成に尽力し、横山大観・菱田春草・下村観山らを育成、さらに古美術保存にも力を入れており古寺社保存法や国宝指定にも携わっていきます。
1890年、26歳のときに東京美術学校を開校。校長として美術教育に携わりますが、内部の確執による東京美術学校騒動によって追われることになります。
その後、共に東京美術学校を去った大観、春草らとともに日本美術院を創設。美術の研究や展覧会の開催、機関誌の発行などを行います。日本画の改革運動を行うも、世間からは認められず、徐々に行き詰まってしまいます。
日本美術院の再建を果たすため、1906年、42歳にして茨城県の五浦の地に別荘、および六角堂を建設。日本美術院の第一部(絵画)を五浦へ移転し、ここを拠点として美術教育を行っていきます。天心の勧めにより大観、春草、観山らもこの地に移住。生活を共にしながら創作活動に励んで行きます。
五浦での活動と並行して、アメリカのボストン美術館でも働きます。英語力を生かして講演会を開いたり、英文による「The Book of Tea」を発行、日本の美意識を海外へと広めていくのでした。
様々な活動をしてきた岡倉天心。ポイントとなるのはこの3点!
②新しい芸術家の育成
③東洋の美を世界に広めた
企画展「並河靖之の雅な技」
この美術館では年に数回、様々な企画展を開催しています。私が訪問した2022年8月に開催されていたのはこちらの企画展。
『並河靖之の雅な技 世界を魅了した明治の京都七宝』
開催期間:2022年7月9日(土)〜9月25日(日)
七宝というのは金属の土台にガラスの粉である釉薬を焼き付けて装飾する技法。並河靖之の作品を中心に、明治時代の七宝を集めた展覧会です。
明治維新の東京遷都によって衰退した京都の伝統工芸。並河は伝統が途絶えていた七宝に着目し、日本の象嵌七宝ではなく中国の有線七宝を参考に独自の作品を制作。輸出をメインに、海外の富裕層好みの作品を制作し、高い評価を得ました。
藤の花、菊唐草、花鳥図など様々な文様が描かれた作品はとっても華やか。艷やかでマットな色使いはレトロな印象。現代にも通ずるかわいらしさがあります。
行ってみた感想
岡倉天心も近代日本美術もぜんぜん知識が無いため、果たして楽しめるのかどうかとても不安でした。ウイキペディアなどで天心について調べてみても、内容が難しく、いまいちその実態が掴めず・・・。
そんな状態でしたが、岡倉天心記念室では天心の活動が年代ごとにわかれて展示されており、非常に見やすい!美術館というより博物館の要素が強く、順に見ていくだけで天心という人物について知ることができました。
また、企画展についても「七宝とは何か」をわかりやすくまとめた案内や、実際に七宝を行う映像、さらに展示室内の作品それぞれにも解説があり、全く知識が無い状態でも楽しめるようにいろいろと工夫がなされています。
企画展の出口に設置された「あなたの心に残った一点」。これは展示作品のうち、一番心に残ったものにシールを貼っていくという、いわゆる人気投票ですね。
スタッフさんもみなさまとても親切で、訪れる人のことをよく考えている印象の美術館でした。
アクセスと営業情報
最寄り駅はJR常磐線の大津港駅ですが、徒歩だと45分ほどかかります。大津港駅からは北茨城市巡回バスもありますが、1日3本、さらに火木金限定のため、利用するのはなかなか難しそう。素直にタクシーが良いかもしれません。
車の場合は常磐自動車道の北茨城IC、およびいわき勿来ICより15分ほど。駐車場は無料です。
開館時間 | 9:30~17:00 |
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休館日 | 月曜 |
料金 | 岡倉天心記念室:190円 企画展:企画展ごとに設定 |
公式サイト | http://www.tenshin.museum.ibk.ed.jp/index.html |
※掲載の情報は2022年8月時点のものです。最新情報は公式HPにてご確認ください。
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