1300年近くという長い間、およそ9,000点という宝物を守り続けてきた「正倉院」。その様々な宝物をデジタル技術と職人のワザを駆使して再現した「再現模造」を多数展示した展覧会。天下の名香・蘭奢待(らんじゃたい)のレプリカも展示されており、再現されたその香りも体感することができます。
大人気の正倉院展
上野の森美術館は昭和47年(1972年)にオープンした美術館。多数の美術館・博物館が立ち並ぶ上野公園内にあり、その中で唯一の私立美術館です。
この美術館はコレクションを持たない、企画展・特別展専門のミュージアム。2008年の「井上雄彦 最後のマンガ展」、2012年の「ツタンカーメン展」、2018年の「フェルメール展」など話題の企画を次々と開催しています。今回はこちらの展覧会狙いで訪ねました!

会期:2025年9月20日(土)~11月9日(日)※会期中無休
開館時間:10:00~17:00(※入館は閉館の30分前まで)
公式サイト:https://shosoin-the-show.jp/
そんな通称・正倉院展ですが、会期終了日が近づくにつれて混雑!訪問前日11/2(日)に公式Xを見たところ、日中はなんと90分待ち!!フランス館かと突っ込みたくなります。15:40には待ち時間が60分と減少したものの、当日券の販売は終了に。
今回11/3(月・祝)の15:00頃に向かったところ、10分程度で入ることができました。会場内はけっこう混雑していましたが、ところどころにある映像で人の波がストップするので、タイミングを調節すれば見たいものはじっくりと見れました。

やっぱり、日中よりも、終了時間近い方が混雑緩和されるようです。そして、会期終了間近になると混雑します!!これは万博とまったく一緒ですね!!!
宝物が集められた歴史
正倉院というのは奈良時代の宝物を納めた世界遺産の建築。第45代天皇・聖武天皇の崩御を悲しんだ光明皇后が、天皇が生前大切にしていた品々を東大寺の大仏にお供えしたことがはじまりといわれています。国内の宝物にとどまらず、シルクロードの国にルーツを持つ貴重な品々を含めて9,000点もの宝物を保管。1300年にわたり守ってきたのです。
まずは聖武天皇と光明皇后の紹介からスタート。聖武天皇の31歳のときの書「雑集」は、中国六朝〜唐時代の詩文を21m以上に渡り写したもの。つまり、ここに記された文字は聖武天皇の直筆。文字の美しさはもちろん、上下左右を均等に連ねるスキルが凄いです。

こちらの巻物は、聖武天皇が生前使っていた品々を東大寺大仏に捧げた際の目録「国家珍宝帳」を原寸大で再現したもの。宝物660点以上が14m以上にわたって記されています。検索機能の無い時代、これを把握するのは大変だったろうなと、何故か管理者目線になってしまいました。

技巧が際立つ宝物
こちらのお櫃のような箱は螺鈿箱(模造)。ラピスラズリで飾った紺玉帯を収めていた箱で、ヤコウガイの唐花文様や彩色された水晶が静かに輝きます。

教科書でおなじみの代表的な宝物、螺鈿紫檀五絃琵琶(模造)。その鮮やかな装飾は、600を超えるヤコウガイとタイマイのパーツからできており、「撥受」(※ピックアップがありそうな部分)にはラクダに乗る人の姿が描かれています。世界で唯一現存している五絃の琵琶とのことですが、五絃の琵琶って他にはないのでしょうかね。

紅牙撥鏤尺(模造)は、儀式用の物差し。象牙の表面を染めて彫刻する「撥鏤(ばちる)」という技法が使われています。物差しということは、側面の模様が目盛りになっているのかな。

デジタル宝物映像
最新の技術で宝物をスキャンして作成した超高精細の映像を、巨大スクリーンで上映。様々な宝物の美しい意匠の細部や質感を表現しています。きらびやかなデジタル映像は、万博パビリオンを思い出してしまいますね。

さきほど紹介させていただたいた「国家珍宝帳」や「螺鈿紫檀五絃琵琶」も登場するので、じっくり展示品を見た後だとさらに解像度が上がります。
装飾に登場する麒麟、犀、鳳凰、象が動くシーンや、正倉院の姿も映し出されます。没入型の映像で、一気に引き込まれました!

異国を感じる品々
シルクロードを通って伝わった、異国情緒あふれる宝物も多数。こちらの紐玉帯(模造)は、アフガニスタン産の紐玉(ラピスラズリ)で飾った革の帯。先ほどのお櫃のような螺鈿箱に収められていたものです。帯とはつきますが、その形状は現代のベルトとほぼ同じ。現代ファッションにもハマりそうなおしゃれアイテムで、1000年以上も前の宝物とは信じ難いデザイン。

カラフルなガラスの瑠璃魚形(模造)は、箸置きかと思いきや腰帯から吊り下げた飾り。かわいらしいデザインですが、本来は通行証として利用されていたそう。

瑠璃杯(レプリカ)はブルーのガラス器に金色の台脚がついた鮮やかな逸品。イラン周辺で作られたガラスに中国で台脚がつけられ、日本にもたらされたそうです。

シルバーの球体は銀薫炉(模造)という、内部の皿にお香を入れて、衣服に香を焚きしめるための道具。お皿の部分は3重の輪が取り付けられており、球体を傾けても常に水平になる仕組みとなっています。これはジャイロスコープですね!

香りも体感できる蘭奢待
この展覧会の目玉展示が蘭奢待(らんじゃたい)のレプリカ。沈香(じんこう)という香木の種類のひとつで、「天下第一の名香」とも称されています。正倉院に収蔵される宝物であり、宝物名は「黄熟香」といいます。

その長さは156cm、重さは11.6kg。ベトナムからラオスにかけての山岳部で採れるジンチョウゲ科の樹木と考えられています。
歴史上では何度か切り取られていますが、特に知られているのは足利義政・織田信長・明治天皇といったときの権力者によるもの。実物は、その跡に紙箋がつけられているそうです。

このレプリカはNHK大河ドラマ『麒麟がくる』で使用された小道具。そのため時代考証的な理由で、明治天皇の切りあとは再現されていません。
蘭奢待のまわりには香りの体験コーナーも。蘭奢待を特製の枠に入れシートで覆って香りの成分を採取、数ミリの脱落片を加熱して成分を科学分析、そして調香師がその香りを嗅いで科学分析から導き出される香りをもとに再現していったそう。

館内は混雑していたため順番待ちかと思いきや、なんと20ヶ所くらいあるため気軽に何度も体験できました。どんな香りかといいますと、シナモンみたいな甘さとスパイシーさを感じるタイプ。香水で例えるなら「オリエンタルアンバー系」でしょうかね。
ちなみに、蘭奢待という3つの漢字は、それぞれ「東」「大」「寺」の文字が隠れています。東大寺に保管されていたため「東大寺」と呼ぶべきところ、燃やして使用するものであるため縁起が悪いということで、文字を隠した「蘭奢待」という名称が付けられたそう。ということは「凍美詩」とか「煉天侍」とかでも良かったのかもしれませんね。
現代アートとの融合
最後の展示室へは宝物に描かれた文様を集めた「美のアベニュー」。カラフルな色彩のゲートをくぐっていきます。

ファッション、音楽、陶芸、写真の分野の現代アーティストが宝物からインスピレーションを受けて作り上げた作品が展示されています。いうなれば、1300年の時を経たコラボレーションです。
こちらのドレスは篠原ともえ《LACQUERED EWER SHOSOIN DRESS》。宝物のひとつ、「漆胡瓶」の植物や動物の文様を再現しています。

ミュージシャン、亀田誠治の《光》は1300年前の楽器から生まれた音楽。昭和20〜30年代にかけて録音された音源を使用して作り上げた楽曲が、展示室内にて流れています。それぞれの元になった音源を個別に聴くこともできます。

見逃せない蘭奢待グッズ
出口にはミュージアムショップがあり、展示物に関連した様々なグッズを販売しています。人気なのは「蘭奢待の香りカード」。一時は品切れになったものの、再販しました。
私はうっかり蘭奢待クッションを買ってしまいました!蘭奢待をそのままクッションにしたというなかなか攻めたグッズ。足利義政・織田信長・明治天皇の切り取った跡にはしっかり印がつけられています。

香りカードも購入できたので、クッションとあわせて「自宅に蘭奢待がある」という非日常を体験したいと思います!



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