東京都の府中市に残る飛鳥時代の古墳。上円下方墳という珍しい形状に加えて、3段構造であることや版築工法が採用されたことなど特徴は多い。古墳の多い地域ではありますが、他とは異なる異質な古墳です。
熊野神社に鎮座する古墳
川崎駅と立川駅を結ぶJR南武線の西府駅。北口から500mほどのところには熊野神社が建っています。御祭神は素戔鳴命(すさのおのみこと)であり、江戸時代初期の創建であるそう。
そんな熊野神社の本殿の裏側には大きな古墳が鎮座しています。こちらはその名も武蔵府中熊野神社古墳。飛鳥時代に築造された古墳です。
被葬者は不明ですが、武蔵国府設置直前に大きな力を持っていた人物の墓と考えられます。
最大の上円下方墳
この熊野神社古墳の最大の特徴がその形状。1段目が正方形、2段目も正方形、3段目が円形という3段構造の「上円下方墳」となっています。
上円下方墳は非常に珍しく、現在国内では4基しか見つかっていません。その中でも、国内最大・最古であることがわかっています。
発掘調査では、七曜紋が記された「鞘尻金具(さやじりかなぐ)」、「環金具(かんかなぐ)」、「刀子(とうす)」、「棺の釘」、「ガラス玉」などが出土しているそうです。
残る3基の上円下方墳ですが、奈良県奈良市と京都府木津川市にまたがる「石のカラト古墳」、静岡県沼津市の「清水柳北1号墳」、福島県白河市の「野地久保古墳」がその形状で築造されているそうです。
古墳発掘調査の歴史
この熊野神社古墳、古来より熊野神社の裏にある小山であり、古墳かもしれないと噂されつつも確証が無いという状態でした。
1990年に熊野神社の山車の収納庫を建て替える際に発掘調査が開始。人工的に造られた山であることや、大量の河原石が見つかったことから古墳ということが濃厚になるもまだ認められず。1994年に同じく府中市にある高倉古墳群の地中レーダー探査が開始。合わせてこの小山も探査対象となり、地中に構造物があることがわかります。
2003年、ついに発掘が行われます。すぐに古墳であることがわかり、2005年に国の史跡にも指定されました。
現在は地域おこしへの活用が進められており、「武蔵府中熊野神社古墳まつり」も開催。最寄り駅である西府駅にも大きく案内が出ていました。
すぐ側には資料館もあり
神社の傍には、府中熊野神社古墳展示館という資料館があります。館内では、映像コンテンツやパネルで熊野神社古墳について学ぶことができます。
復元された墳丘を見ていても知識が無いとさっぱりわかりません。そんなときはここに行けばこの古墳の何が珍しいのかがしっかりとわかります。古墳の築造には、種類の異なる土の層を重ねた「版築工法」が採用されているそうですが、それについてもしっかりと紹介されています。
再現された石室もあります。羨道、前室、後室、玄室と復元されており、実際に中に入ることも可能。
一番奥の玄室は広々としており、妙に落ち着きます。換気のために置かれた扇風機、足元を照らすライト、さらにベッドの様に横たわる木棺模型・・・。なんだかおしゃれな個室ホステルみたいに見えてきました。
開館時間 | 9:00~17:00 ※11~3月は10:00~16:00 |
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休館日 | 月曜、年末年始 |
料金 | 無料 |
公式サイト | https://www.city.fuchu.tokyo.jp/shisetu/komyunite/gekijo/kumanokofun_tenjikan.html |
※掲載の情報は2024年3月時点のものです。最新情報は公式HPにてご確認ください。
おまけで御嶽塚古墳
熊野神社古墳のある北口とは反対側の西府駅南口には、穏やかな雰囲気の公園があります。実はこちらも御嶽塚古墳という名の古墳。
直径25mの円墳で、その周囲には幅7mの溝がめぐらされていたそうです。
墳丘上に生える木の根元には石祠があります。「御嶽大権現」「安政五午年」の記載から、江戸時代には御嶽信仰の信仰対象であったと考えられています。
熊野神社古墳へ訪問する際は、合わせてちらっと見てみるのもおすすめです。
コメント
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