地獄の門と考える人の関係とは『静岡県立美術館』(静岡市)

静岡県

17世紀以降の東洋画・西洋画や、静岡にゆかりのある作品を多数展示する美術館。新館にあたるロダン館では、「地獄の門」や「考える人」に代表されるロダンの彫刻作品をたっぷり鑑賞することができます。

訪問日:2023/2/24(金) ※掲載の写真・情報は訪問時のものです

緑の中の美術館

静岡県立美術館は日本平の麓に建つアートミュージアム。静岡市の中心部からは少し離れていますが、緑豊かな空間で自然に包まれるように佇んでいます。

美術館のまわりは公園のようになっております。敷地内には静岡県立中央図書館もあり、カルチャーパークのような雰囲気。

この美術館は、県議会100年記念事業の一環として1986年にオープン。静岡駅前には、非常に名前の似ている静岡市美術館がありますが、こちらの県立美術館の方が歴史が古いです。また、市美術館は企画展示のみであるのに対し、県立美術館は多数のコレクションを収蔵しています。

ここでしか見ることができない作品があるため、もし旅行で訪れるならばこちらの方がご当地感を味わうことができます。

屋外作品が並ぶプロムナード

県立美術館前駅から向かうと、美術館正門までの約300mの緑に包まれた彫刻プロムナードを通ることができます。美術館の開館時間前に到着してしまったので、少し散策してみることにしました。

《風化儀式V ー相関体》by 鈴木久雄
積み上げられた石を錆びついた鉄骨が貫通し、ワイヤーで固定されている作品。古代の竪穴住居のようなシルエットに現代的なものを貫かせ、それが風化していく姿がなんだか寂しげ。縛られたような姿からは閉塞感も伝わってきます。

《地簪》by 清水九兵衛
取っ手のようなかたちのアルミニウムが地面に刺さった作品。地簪(ちかんざし)というタイトルから、地面をまとめて飾り付けているのかもしれません。

《蝶》by 掛井五郎
不思議なバランスのブロンズ像。蝶というタイトルは何かの比喩なのか、それとも名前なのか。想像が膨らみます。

作品を鑑賞しながら歩く散歩道。朝一番ということもあり、非常に清々しい気持ちになってきました。

広い展示室で開かれる展覧会

さて、開館時間になりましたので、館内へ。建物に入るとすぐに重厚な雰囲気のエントランスホールが広がります。光に照らされた柱が存在感あります。

1階はインフォメーションセンターやコインロッカーなどがあり、緩やかな階段を登った2階がチケット売り場。私が訪問した際に開かれていた展覧会はコチラ。

「近代の誘惑 日本画の実践」
2023年02月18日(土)〜2023年03月26日(日)

狩野派を中心とした江戸絵画からはじまり、明治時代に変わり近代美術の影響が及んで変化していく様子を表したユニークな展示。作品の解説、さらに作者の概要も記されており、知識がなくても入りやすいように工夫されています。

インパクトがあるのは、展覧会のポスターにも採用されている《群青富士》by 横山大観。1917〜18年という大正時代に描かれた屏風絵ですが、白い雲の中にくっきりと浮かび上がる富士山はまるでポップアート。モダンなデザインが屏風に描かれているということに違和感すら覚えます。

ロダン作品がつまった空間

フランスの彫刻家オーギュスト・ロダンの作品を展示するために、1994年にオープンしたロダン館。美術館の展示室から続く連絡通路を進むと、広大なホール状の展示室が広がります。通常の展示室は撮影不可ですが、ここは写真撮影可能というのもポイントです。

ロダンの代表作といえば《地獄の門》。ダンテ・アリギエーリの叙事詩『神曲』に登場する地獄の門をテーマに造られた作品で、世界に7つあるうちの一つがここに展示されています。

作品の手前の床にはダンテ神曲の地獄の門の銘文が記されており、夏目漱石や森鴎外の訳も併記されています。

《カレーの市民》も著名な彫刻作品。フランスのカレー港がイギリス軍に包囲された「カレー包囲戦」がモチーフとなった群像。この6人は自分たちの命と引き換えに、市民を命を救った英雄なのです。彼らを讃えるために像を造るという依頼を受けたロダンですが、勇ましさよりも疲れ果てた姿や死と直面した恐怖が表現。このリアリティは、物議を醸したそうです。

こちらの頭部は《花子のマスク》。日本人の踊り子である花子をモチーフにした像です。この花子という人物は、ロダン作品唯一の日本人モデル。旅芝居の一座としてヨーロッパを巡業していた花子の演技に惹かれたロダンは、58点もの作品を制作したそうです。

考える人と地獄の門

ロダンの代表作といえば《考える人》。テレビCMなどに利用されたこともあるため、もしかしたら日本一知名度の高い彫刻かもしれません。

実はこの《考える人》、もともとは地獄の門を構成する群像の一つとして造られたものであるようです。

地獄の門を構成とはどういうことでしょうか。門のまわりに配置される予定だったのかな・・・?

さあ、改めて《地獄の門》を見てみましょう。

いました!

門の上部に《考える人》がそのまま付いています。前述の通り、この門の一部であった像を独立させたのが《考える人》なのです。例えるならアルバム曲をシングルカットしたようなイメージでしょうかね。

ここでもう一つの疑問が。先ほど写真を載せた独立して展示されている《考える人》は、《地獄の門》のものよりも遥かに大きいです。

実は《考える人》は、「地獄の門のオリジナルサイズ」「拡大版」「縮小版」と3つのサイズがあります。この静岡県立美術館は、全サイズの《考える人》がそろっており、比較して楽しむことができます。

ところで、考える人って何を考えているのでしょうか?

もともとこの作品の名前は「詩人」でしたが、モネとの二人展にて現在の名前になったそうです。また、「地獄の門の上から地獄に落ちる人を見ている」という説もあります。従って、何も考えていないという可能性があります。

いろいろと秘密のある《考える人》。この静岡県立美術館に来たら、考える人について考えてみてはいかがでしょうか。

アクセスと営業情報

新静岡駅から静岡鉄道で約12分の県立美術館前駅より徒歩15分。またはJR・静岡鉄道の草薙駅より徒歩25分ほど。

静岡駅から向かう場合は、美術館前までバスで行くのもおすすめ!北口出てすぐの11番のりばから出発、乗車時間は26分。時刻表のタイミングさえ合えば、スムーズにアクセスすることができます。

開館時間 10:00~17:30
休館日 月曜、翌祝、年末年始
料金 300円 ※企画展は別料金
公式サイト https://spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/

※掲載の情報は2023年1月時点のものです。最新情報は公式HPにてご確認ください。

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