その名が示す通り、全国的に見ても珍しい犬と猫を祀る神社。この2つの宮には、それぞれ犬と猫の伝説が残されています。いったいどのような物語があるのでしょうか。
高畠町の名所
山形県の高畠町(たかはたまち)は、米沢市と山形市という2つの都市の間にある町。全国的にはそれほど知られていないですが、他にはない魅力的なスポットがたくさんあります。
今回ご紹介する「犬の宮」と「猫の宮」も、そんな高畠町を代表する観光名所のひとつ。今回の旅行の下調べの段階ではその存在を知らなかったのですが、途中で見かけた観光マップに記載されているのを見て、急遽予定に組み込んでみました。
町の中心部から少し離れた場所にある駐車場。そのすぐ前には、こんなわかりやすすぎる案内板が。あなたならどちらから先に参拝しますか?
私はとりあえずここから近い犬の宮から行ってみることにしました。
犬の宮
木立に包まれた鳥居をくぐっていきます。この鳥居、よく見ると石と木を組み合わせています。部分的に材質が分かれているかと思いきや、2つの柱を貫通する「貫」の部分が、途中から石に変わるという、独特な組み合わせ。
鳥居の先にある石段と上ると、犬の宮の社殿があります。
木でできた社殿。小さな石祠くらいをイメージしていましたが、思ったよりも立派な建築。さすが、「宮」とつくだけのことはあります。
さてこの犬の宮、いったいどんないわれがあるのでしょうか。
犬の宮の由来
この高安(こうやす)という里では、役人より年貢として人を指し出すようにという指示があり、村人は困り果てていました。
そんな中、道に迷った座頭がその話をきくと、これは役人ではない何者かの仕業と推測。村人に策を授けます。
それに従った村人は、役人を酒の席に招待、そこで甲斐の国より借りた三毛大・四毛犬を放ったところ、役人の正体は大ダヌキと判明。激しい戦いの末に、犬たちはタヌキを退治することに成功しますが、その傷で命を落としてしまいます。
2匹の犬を村の鎮守にという座頭のお告げに従い、この犬たちを祀ったのが犬の宮のはじまり。その後、この里は難産もなく、子供たちがよく育ち村が栄えていったそうです。
犬の宮に鎮座する狛犬は、獅子のような姿ではなく、まさに犬の姿をしています。
なお、この高安の「高安犬」は、この伝説に描かれているような優秀な狩猟犬として知られていましたが、昭和初期に絶滅してしまったそうです。
猫の宮
犬の宮から歩いてすぐのところにある猫の宮。こちらは少し開けた場所に建っています。参道には、これまた石と木を組み合わせた鳥居。この地域の特色なのでしょうか。
数段の石段の先にあるお社。犬の宮と異なり、猫の像などは置かれておりませんが、屋根の上部に大きく「猫之宮」と書かれているのがポイントです。
先ほどの犬の宮は、村人を困らせる大ダヌキを犬が退治した話でしたが、猫の宮にはどんなストーリーがあるのでしょうか?
猫の宮の由来
かつてこの村に、 信心深い庄屋夫婦が暮らしていました。2人には子供ができなかったため、丈夫なネコを授かるように祈っていたところ、夢枕に観音様が現れ「猫を与えるから大切に育てよ、さすれば村は安泰に、養蚕が盛んになる」とお告げがありました。
夫婦は「玉」と名付け、可愛がっていましたが、どこへ行くにも常に付きまとい、何かを睨むような表情をしていました。夫婦は次第に気持ち悪く感じるようになり、刀で猫の首を切り落としてしまいます。
すると、猫の首は飛び上がり、天井裏に隠れていた大蛇を噛み殺しました。
突然登場するこの大蛇、実は犬の宮のストーリーに出てきた大ダヌキの怨念の血をなめた大蛇であり、村人へ恨みを返そうとしていたのでした。
夫婦は大いに悔やみ、猫を手厚く葬ります。そうして生まれたのがこの猫の宮なのです。
ペット供養の地へ
犬の宮と猫の宮のそばのスペースは、犬猫やすらぎの郷公園として整備されています。ここでは毎年全国ペット供養祭が行われているそうです。
園内にある黄褐色の石造りの建物はペットのための納骨堂。そして、その左右に並ぶ壁はメモリアルプレート。裏側には愛犬・愛猫の写真が飾られていました。
納骨堂の扉は2箇所あり、それぞれ取っ手が犬と猫のモチーフになっています。
大ダヌキや大蛇が登場する不思議なストーリーを持つ犬の宮・猫の宮。現在も新たな役割をもって、大切に信仰されているのですね。
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